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(1/4)

『・・・ぬぅ・・・』

試食タイムが始まって数分。
***は一人悩んでいた。
1つは雑踏に紛れながらも聞こえてしまう審査員の話し合いの内容に。

アグニの調和のとれたカリーを推す声。
セバスチャンのアイディア勝負に出たカリーパンを推す声。
そして美しい淑女と可憐な美少女を選べないという声。

『(そもそも淑女と美少女って何だろ・・・)』

何となく想像はつく。さっき見えた気がしたきれーなお姉さんと女の子の格好をしたシエルの事を言ってるのだと思う。けれどそれはカリーではないわけで・・・。
試食用に用意されたカリーを前に***の中で子爵が“なーんかどっかで会った事あるような?”と言うレベルから“なんかよく判らない人”に変わった瞬間だった。
そして***が前にしているカリー、それが2つめの悩み。

『・・・どこまで辛いのかなぁ・・・』

先の評価を聞く限り、ダリア社のカリーは辛いようなので止めた方が良いのだろう。
後、カリー粉を使っていると評価された会社も。
本音を言えば、アグニのカリーが味を選べそうだから良いのだけど一人で食べきれる自信が無かった。
それに下ろしたてのコートを羽織っている今、アレは色々零しそうでちょっと怖い。
残るはセバスチャンのカリーパンだが、中に入っているのは恐らく例の神のカリーだろう。
となればそれも食べられる自信がない。

『うーん・・・』

食べない、と言う選択肢も勿論ある。
が、それは無理矢理引っ張り出された手前、なんだか勿体無い気がする。
そして何より食欲をそそるスパイスの香りに成長期の小さい体は空腹を訴えていた。
どうしようかな、と一人悩んでいると近くでスパイスが香る。
直後、頭の上に妙な重さを感じたと思えば、視界の隅に劉が現れた。

「こらこら、藍猫ー。ダメだよ、そんな事しちゃぁ、***も困っちゃうだろう?」
『へ?え、え?』
「ごめんねー、***。藍猫が気に入っちゃったみたい」

全然悪びれていない様子の劉が口元に緩く弧を描く。
同時に***は今、上に居るのが藍猫だと理解する。
・・・ただ一体頭の上に何が乗っているかは、あえて気が付かない振りをした。
そんな***に気が付いたのかは判らないが、藍猫は***から離れて袋に包まれたカリーパンを差し出した。

『・・・良いの?』
「***。受け取ってあげて。あ、心配しなくてもさ、この間よりも甘くなってるよ中のカリー」
『う、じゃぁ・・・』

ちょっと渋ったが劉の“甘くなっている”の言葉に釣られて、***は差し出された袋を素直に受け取る。
じんわりと手に広がる温もりに口元が緩むのを感じながら、まだ微かに湯気の立つカリーパンにかじり付く。
サクッとした衣の後からこの間よりも辛さを控えた柔らかい味が口の中一杯に広まった。

『・・・あ。おいしい』
「ね?藍猫も気に入ったみたいでさ〜、ほら、一人でこんなに」

素直な感想を零した***に劉が藍猫が獲得したらしいカリーパンを見せる。
4つ5つはあるだろう袋に***は思わず笑みを浮かべた。

「で、さ。そろそろ発表があるみたいだから、戻らないかい?」

黙々と***がカリーパンを完食した頃合を見計らって劉がそう促す。
言われて慌てながら周りを渡せば成程、人が会場前に集い始めていた。

『ほんとだ。戻らないと・・・』
「じゃ戻ろうか」
『うん』

先立って歩き始める劉を追いかけるように***は歩く。
それでも人が多く、しかも大人の多いこの場所では小さな***は人波に埋もれてしまう。
必死に歩いても人に遮られ、次第に劉が遠くなっていく。

―はぐれてしまう

そう***が覚悟した瞬間、不意に右手を掴まれる。
ギョッとしてその先を辿れば、劉の傍にいたはずの藍猫。
うろたえる***を気にする事無く、彼女は人波を物ともせずに歩いていく。

「藍猫、急にいなくな・・・。そっか、***を探してたんだね」
『あの、ごめんなさい・・・』
「***は悪くないよ。気が付かなかった我が悪いんだから。折角だから藍猫、そのまま手繋いであげてよ」

劉の言葉に藍猫は小さく首を縦に振ると、***を一瞥してそのまま劉の後に着いていく。
必然的に引っ張られる形で歩みを進める***は困惑しつつも、はぐれない事にそっと胸を撫で下ろした。

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