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そして遂にその日。
いつものように仕立てた洋服に身を包むシエルと、いつもと違いちょっと良い服に袖を通した使用人達に引き連れられて、***もクリスタルパレスに足を運んでいた。

「うわーーっ、あの大きな生き物はなんですか!?」
「あれはゾウといってな。神聖な生き物だ。俺の城でも飼ってるぞ、10頭ぐらい」
「スゲーな!!ペットかよ!」
「あんな大きいの家で飼ってるですだか!?」
『餌代かかりそー・・・』

盛り上がるソーマと使用人達の輪から一歩離れたところで***は素直な感想を口にする。
昨日突然届いたケープ付きのコート(ご丁寧に厚手の裏地付)を羽織っているため、言うほど寒くは無いが眠気だけはどうしようもなく、時折込み上がる欠伸を何度噛み殺したことか。それでも舟を漕がないのは周りにある物珍しい生き物や催しのおかげだった。

「貴方がたあまり遠くに行かない様にしてくださいよ。それから***はそんな中途半端なところにいないで下さい。人ごみに流されたらどうするんですか」
『え?あ・・・ほんとだ』

後ろからかけられたセバスチャンの声に我に返ればソーマ達は少し離れたヘビ使いの方へと移動していた。
今の***は丁度道の往来で1人佇んでいる状態、これはマズイと慌ててシエルの元へと移動する。

「・・・ボーっとしてただろ」
『・・・ちょっとだけ』

呆れたようなシエルの問いかけに自覚はしているので、若干罰の悪さを覚えながら答えれば今度はまた別の方向から声がした。

「やぁ伯爵。とうとう本番だね」
「得意先の前で女連れかお前は」

振り返れば劉、とその腕の中に抱かれている一人の女性。
劉曰く小妹の藍猫(ランマオ)で品評会のカリーを食べさせてあげるために連れてきた・・・らしい。
興味なさげなシエルに対して、***は藍猫に視線は釘付けだった。

『・・・』
「・・・」
「ん?***どうしたんだい?」
『う、ううん。何にもない・・・です』

じーっと見詰め合う2人に劉が声をかけるが、***は首を横に振るだけ。
そんな***に劉はいつもの笑みを浮かべた後、その場に藍猫を残しシエルの元へ行ってしまった。

『(・・・同じだ・・・)』

短く切りそろえられた前髪の奥から覗く瞳の色が。
自分とは違うと判っていても、自分と同じ色だから何故か惹かれてしまう。

「・・・・・・」
『へ?あ、あわわっ・・・!』

うん?と小首を傾げた藍猫が***の腕を引く。
バランスを崩した***はそのまますっぽりと藍猫の腕の中に納まる。
何かするわけでもなくただ後ろから抱きしめられているだけ。
会話もなく、ひたすらこの状態に次第に***も困惑し始める。
どうしたら良いのかなぁ・・・と考え込んでいると、不意に藍猫が立ち上がり***はその場に放り出される。

『・・・なんだったの・・・?』

***を見る事無く劉の傍へと行ってしまった藍猫に***は首を傾げる。
折角だから自分もシエルのところに行こうと思ってふと立ち止まる。
シエル、セバスチャン、劉、藍猫と全く見知らぬ男が1人。
下手に入らない方が良い。と直感が囁くから関係ない素振りを装い物陰に隠れるソーマ達の下へと向かった。

『ねぇ。あれ、だぁれ?』
「アイツがウエストだ。アイツが・・・」
『ふぅん・・・』

様子を伺いながらもちゃんと教えてくれたソーマの傍で***もこっそり視線をウエストに向ける。
少しばかり距離があるので会話がちょっと聞き取りにくい、でも立ち振る舞いを見てる分にはあまり好きになれそうにない人っぽいなぁ。と言うのが***の抱いた感想だった。後ついでにあれが鹿の剥製の持ち主か、と言うことと。
やがて時計を確認したウエストが離れるのを見計らって、***もシエルの元へと移動する。

『なんか嫌な感じの人ー・・・』
「そうだな“英国王室御用達を頂くのですから”・・・だしな」
『・・・そんな事言ってたの?』
「えぇ。完全に優勝する気になっていますね」
「そういう奴が負けた時どんな顔をするかが楽しみだ」
「御意。では私もそろそろ出場者の控え室に行って参ります」
『あ、行ってらっしゃい!』
「はい。行って参ります」

小さく手を振って見送る***にセバスチャンは軽く一礼して背を向ける。
それを見届けた後、シエルは隣にいる***に視線を投げかけた。

「普通は頑張れとか、優勝してねとか言うんじゃないのか?」
『なんで?』
「なんでと聞かれても・・・」
『だってセバスチャンさんだよ?負けない、でしょ?』
「・・・まぁな」

絶対的な確信を持った***の言葉にシエルは口元にうっすらと笑みを浮かべた。


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