no title | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


(1/4)

真夜中の事件から丸1日半。
まるで死人のように眠り続けていた***は状況の変化に若干取り残されていた。
何でもカリーはスパイスを1から挽いて作るのがインド式らしく、カリー粉を使うイギリス式では到底アグニのカリーには太刀打ちできない。と言うことになり、一応貿易会社の支店長である劉がスパイスの調達と言う任を押し付けられたのだとか。

『・・・劉さんって、支店長だったんだー・・・』
「***・・・お前知らなかったのか?」
『うん。聞いてたら多分忘れてないと思う・・・』

一通りの話を聞いた後の少しばかりズレた感想と自信なさ気な***の返事にシエルは呆れたように溜息を吐く。
でも今気にすべき点はそんな小さな事ではなく、数日後に控えた品評会。
その為シエルは気になっていた事を1つ***に尋ねた。

「そういえば、品評会はついて来るんだろう?」
『え゛、と・・・』

思ったとおりの反応。
***はこっちを見たかと思えば、すぐに視線を逸らしてしまった。

「なんだ僕はてっきり来ると思っていたんだが」
『・・・や、あの・・・ね?その、う〜〜〜・・・来るんでしょ?』
「誰が」
『ぐ・・・。その、・・・女王、が・・・』

服の袖口を弄りながら、酷く言いにくそうに***は答える。
視線もチラリ、チラリとシエルを見ようとはしているが、中々上がっては来ない。

「女王陛下が品評会へ見学にいらっしゃるかは当日にならないと判らないな」
『でも、もし来たら・・・』
「うん?何か起こるのか?」
『や、多分・・・大丈夫だと、思う・・・けど・・・』

段々尻すぼみになっていく***の声。
彼女が何を心配しているのか、それは何となくだがシエルも判っているつもりだ。

(大方、実際に陛下の姿を目の当たりにしたら。と考えているんだろうな)

頬肘をつき、足を組みなおして***を眺める。
相変わらず俯き、手元で袖口を弄ったままだった。

(・・・目を逸らすのもそうだが、袖口を弄るのも癖になってるな)

「***。顔をあげろ」
『っ・・・、はい・・・』
「そんなに“もしも”が怖いのか?」
『え』
「そうだろう?“もしも”女王陛下の姿を見つけてしまったら。“もしも”そのせいで自分が暴走してしまったら。・・・そういうことを考えていたんじゃないのか?」
『・・・』

押し黙ってしまう***にシエルはやっぱりか、と納得する。
結局のところ、***が渋る最終的な理由は周りに迷惑をかけてしまったら、と言う事なのだろう。

『・・・シエルには、判んないよ』
「そうだな。言ってくれなきゃ僕には判らないな」
『・・・意地悪』
「だろうな」

フンと口角を上げて笑うシエルに***は観念したようにソファに深く座りなおす。
そして今度はちゃんと真直ぐにシエルの目を見て口を開いた。

『・・・シエルの言うように、“もしも”が怖いよ。女王に会ったこと無いから判らないけど、もしも言われた訳でもないのに、自分を失って女王を狙いに行ったらとか、もしもそうなったら確実にシエルや品評会に参加してる人たちに迷惑がかかるとか。そういうこと考えたら・・・行けないよ』
「そうか。じゃぁ聞くが、それは陛下が品評会は不参加だと明言されていても同じ事を考えていたか?」
『それは・・・どういう意味?』
「そのままの意味さ。品評会と言う場所で、突然暴走したりしないだろうか。・・・そう考えたりするか?」
『・・・多分、してないんじゃないかな。だって、そんな事考えてたら、私ここから1歩も出歩けなくなるもの』
「だろう?だったら別に品評会に行けるだろう?」
『なんで・・・そうなるの・・・』

不満げな声を漏らすが、***自身シエルの言いたい事は何となく判っているつもりだ。
起きるかどうか判らない可能性を心配して動けなくなるぐらいなら、その心配をするな。
きっとそう言いたいのだろう。

ただもう一つだけ、***には外出を渋る理由があった。

(・・・。寒いの嫌なんだけどな・・・)

ここにいれば暖炉の傍にいるか、自分の寝床に埋まっていれば寒さを気にする必要はない。
しかしそんな***の考えを見抜いていたかのように、シエルは不敵に笑いながら口を開いた。

「あぁ、それからな。品評会の時には使用人たちも皆連れて行く。当然火事になっても困るから暖炉の火も消していくぞ。それに品評会は1日行事だからな、朝出かけたら夕方過ぎないと戻ってこないだろうな」
『あう・・・』

品評会についてこなければ、その日の暖は愚か食も無いと言う。
今のシエルの言葉で***の退路は完全に断たれてしまった。
と言うよりもシエルに身体能力と書物の記憶力以外で勝てるわけがないのだから、品評会の話題が出た時点で***の参加は既に本人不在で決められていたのだろう。
ただそれを当日告げれば、***が外出を渋るのは目に見えていたから先に伝えておくことにした。と言うところか。

『行けばいいんでしょ・・・行けば・・・』
「よし、当日ごねるなよ。」
『・・・はぁーい・・・』

渋々承諾した***に対してシエルは満足げな表情を見せる。
思わず色々文句を言いたくなってしまったが、今更言ったところで何の意味も為さないのは判っているから、***は咽喉下まで上がってきた言葉は黙って飲み込むことにした。
>>

目次へ

[ top ]