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「#エロ」のBL小説を読む
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(1/4)

・・・思えば朝から(正確には昼前から)今日は運が悪かった。

まず目を覚まして、毎日の寒さに億劫になりながらベッドから降りようとしたら、足元を引っ掛けて顔から床に突っ込んだ。
(お陰さまで1日中***の額は真っ赤だった)

次に着替えを済まして遅い食事を摂っていたら、洋服の袖をカップに引っ掛けて紅茶を零してしまった。
(よりによってお気に入りだったのに、紅茶染みがついたかもしれない)

更に何故かシエルは虫の居所が悪いらしく、一日の大半が不機嫌のままだった。
(・・・最も機嫌のいいシエル、と言うものを殆ど目にしないけれど)


そして。

『・・・?』

真夜中、物音に気が付いた***はベッドの中から体を起こした。

『・・・寒っ・・・』

肌を突き刺すような寒さに目も覚めるが、なにより未だに聞こえる物音が気になる。
暗闇の中、雪明りを頼りに時計を見れば午前1時。屋敷の住人の就寝時間はとっくに過ぎていた。
まさかファントムハイヴ家の街屋敷に忍び込む馬鹿はいないと思うが、そのまさかの可能性も無いとは言い切れない。

『・・・セバスチャンさんが、何かしてるってだけならいいけど・・・』

妙な使命感に駆られ、クローゼットの中から上着を2枚着込むと***は冷え込んだ空気の中、自ら部屋を抜け出した。








「・・・それで部屋から出てきたと?」
『・・・ん』
「あちゃー、なんだか悪い事しちゃったねぇ」
「極力物音は立てないようにと気をつけたのですが・・・申し訳ありません」

物音の正体は夜な夜な外出するソーマ達の後をつけたシエル達が帰宅した音だった。
灯りも持たずに現れた小さな影に警戒したシエル達、***と判るや否や2人は別の意味合いで警戒をしたが、***の意識がハッキリしていることに気が付くと、すぐにその警戒を解いた。
逆に***は物音の原因がシエル達だと判るや否や、眠気に襲われ始めその頭はゆらゆらと揺れ始めていた。

「・・・さ、もうじきソーマ様たちがお戻りになられます。我々が尾けていたと気付かれないようにしなくては」
「そうだな。***、眠いだろ?セバスチャンに暖炉の火を入れさせるから、部屋に戻れ。セバスチャン、頼んだぞ」
「御意。さぁ、***様行きましょうか。」
「***、お休み」
『おやすみ、なさい・・・』

セバスチャンに手を引かれ、ふらふらしながら***は部屋に戻る。
勿論眠たさで頭が回らなくとも、夜中の外出の理由を聞くことは忘れずに。

『怪しい、から?』
「はい。劉様の提案です。実際にはただ聞き込みをしているだけのようでしたが」
『・・・あー、あの、女の人の』
「えぇ。ただ・・・恐らく動くでしょうね。もう一度」
『ふぅん・・・』

面倒だし寒いからと上着を着たままベッドに潜り込もうとすれば、「横着しないで下さい」とセバスチャンに上着を脱がされた。
それじゃぁ寒いと反論する前に暖炉に火が灯され、眠気より暖を選んだ***は暖炉の前を占拠しながらボンヤリとセバスチャンの話を聞いていた。

「しかし動くとは言え、いつ動くか判りませんから***は気にせずお休みくださいね」
『・・・あれ、じゃぁ・・・皆、また出かけるんですか?』
「そうですね、必然的にそうなると思いますよ」
『じゃぁ、待ってます』
「え?」

思いがけない***の言葉に上着をクローゼットに仕舞っていたセバスチャンが僅かに目を見開く。
当の***は暖炉の前で膝を抱えながらボソボソと言葉を続ける。

『だって・・・仮に今夜動くとして。・・・多分、夜明けまでには、戻ってくると思う・・・から』
「何故です?」
『ん、と。ほら、夜が明ければ人が動き始める、から目撃されやすくなって、その・・・ウロウロしてるのが見つかって、えぇと、だから・・・』
「・・・要するに人目につかない時間帯に終わらせるだろう、と言うことですか?」
『それ、そうです』
「そうですか。・・・ですが眠いなら、お休みになられて良いのですよ?」

明らかに頭が回らぬまま話している***を暗に諭せば、ゆっくりと首を横に振られてしまった。

『・・・いいの。多分、また起こされるから』
「それは・・・先ほどの件も含めてならば失礼致しました」
『・・・いいの。シエル達はお仕事で動いているんだから、仕方ないもの』

寛容に見せかけ、どこか毒のある言葉を***は呟く。
その毒は恐らくソーマ達に向かっているのだろう。

「でしたらお体だけは冷やさないようにしてくださいね」

僅かな苦笑を残しながら、セバスチャンは***の部屋を後にした。

そして午前2時45分。
1つの足音が屋敷の外へを溶けていき、後を追うように4つの足音も溶けて行った。

『・・・本当に動いちゃった』

ふぁぁ、と込み上げる欠伸を隠しもせずに暖炉前から窓際に移っていた***は呟く。

『・・・待てるかなぁ』

新しく雪の上に刻まれた足跡を見つめる後ろで暖炉にくべられた薪がパキリと音を立てた。

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