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(1/5)


冬、一面が白い雪で覆われるこの季節。
寒さに弱い***の朝は、陽が高く上った頃から始まる。

冬以外ならばセバスチャンやごく稀にメイリンが起こしに来るが、冬はそれが無い。
何故か。それは***の寝起きが非常に悪いからだ。

実は一瞬でも死神やらセバスチャンと互角に渡り合える***。
寒さのため不機嫌で、更に寝ぼけている彼女は非情なほど手加減を知らない。

しかしそんな事など、露知らず。
冬の寒さに潜んでいた意外な***の一面に気付かぬまま、何時も通り起こしに行ったセバスチャンがボロボロになったのは1月程前の出来事だ。
同時に彼が「朝から面倒を増やしたくないので、気の済むまで***を寝かせておくのは駄目でしょうか?」とらしくない提案をシエルにしたのは、ファントムハイヴ家の面々に記憶に新しい。
(勿論それは受諾されたため、***の活動時間は昼からとなっている)

何故、このような事を記しているか。
答えは簡単。今まさに***を起こそうとする猛者がいるからだ。
当然その人は***の抱え込んでいる爆弾の存在など、知りはしない。



「・・・ぅ・・ぃ・・・ま」
『ん・・・』

ゆさゆさと揺さぶられる感覚に***の意識はゆっくりと浮上する。
しかしその脳内を支配するのは、寒い・眠い・起こすなと言う感情。
揺さぶられるたびに出来る隙間から流れ込むのは、冷たい外の空気。
覚醒するには程遠い***の思考に生まれるのは、安眠妨害者の排除という防衛行動。

「ぉ・ょぅ・・・ぃ・・・・様」
『・・・』

うるさい、邪魔するのは誰、どこかに行って。
毛布に包まる中、自然と眉間に刻まれていく皺。
しかし自分を起こす声は止まない。
誰?この声は男の人。でも、セバスチャンさんじゃない。
シエル?それはありえない。だって起こしに来ないもの。

「―ようございます、***様!」
『っ?!』

悩んでいる間に勢いよく毛布を引き剥がされる。
一気に冷たい空気に晒された体は思考を停止し、瞬時に攻撃態勢に切り替わる。
相手が誰かの確認もしないまま、***は植えつけられた本能で相手の急所を狙い蹴りを入れる。


・・・はずだった。



「いけません!女性がそのような、はしたない事をするべきではありませんよ!」
『え、ぇ・・・?』

向こうは前屈みになっているのだから、頭部を狙ってしまえば良い。
そう判断して繰り出した右足は簡単に受け止められ、あまつさえ怒られた。
予想しなかった防御に***の思考は冷静さを取り戻し、同時に一気に覚醒へと勢いをつけた。

「・・・?寝ぼけてらっしゃったのでしょうか?ですが・・・起きてすぐに蹴りを出すのは行儀としてもよくありませんよ。お気をつけくださいね。あ、流石にお着替えをお手伝いすることは出来ませんので、私は失礼しますね」
『え、あ、はい・・・』

英国とは違う格好をした相手は一気に喋りながら、暴れて乱れた***の寝巻きを手早く直す。
そして状況を把握していない***の頭を一つ撫でると、部屋を出て行った。

『・・・誰?っていうか寒い・・・』

首を傾げて思い出そうとするが、それよりも寒さが身に堪えて再び毛布に包まる。
しかし***が数時間かけて暖めていた毛布は、剥ぎ取られた事でその暖かさは全て外に消えて冷たくなっていた。
冷たい毛布で2度寝するのは耐えられないので、***は仕方なくクローゼットから着替えを引っ張り出す事となった。


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