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『ねぇ、待ってよぉ』
ガサガサと草を押し退けながら目の前を走る彼女に向かって叫ぶ。
彼女は時折足を止め「遅い」と言わんばかりの顔をして、また走り出す。
ここ2時間ぐらい、ずっとその繰り返しだ。
「いい所に連れてってあげる」
彼女がそう言うから着いて来たのに……森の中を走るなんて予想もしてなかった。
「全く…私より若いくせにスタミナなさすぎじゃない?」
『うっ…』
走る足を休め、待ってくれていた彼女は追いついた私に容赦ない言葉を浴びせる。
しかも呼吸を整える暇しか与えてくれない。
『えっ…もう走るの!?』
「当たり前よ、あの人は時間に正確だもの、急がなくちゃ間に合わないわ」
誰かさんのせいでね、とわざとらしく息を吐きながら彼女は言った。
『じ、じゃぁ私帰るもん!』
「一人で?ココから?」
『あぅ、頑張れば帰れるもん…』
「あんたみたいな方向音痴、道に迷って野たれ死ぬのがオチよ」
『………』
返す言葉もなく、私は黙って彼女に追いつくべく走り出した。
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