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『・・・テイカー、いる?』

何時来てもよく判らない雰囲気を醸し出している店内に向かって、***はその人の名を呼ぶ。
入口が開いているのだから、留守じゃないはずなんだけど。
そう思いながら、あたりを見渡していると、奥の方から声がした。

「***?今、お客さん中だから適当に座っておいてくれないかい?」
『わかったー』

そう言えばちょっと血の匂いがしてるかも。
なんて考えながら、***はそこらへんに転がっていた棺に腰掛けた。

『・・・中身、入ってないよね?』

ちょっと心配になって叩いてみるが、よく判らない。

『大丈夫、きっと大丈夫・・・』

少し青ざめながら、***は改めて腰を下ろす。
壁にかかっている卒塔婆の数を何度も数え、それにも飽きてきた頃ようやく店の奥から葬儀屋が姿を現した。
・・・ビーカーに入れた紅茶を2つ、手に携えながら。

「1週間ぶり・・・かな?」

店のカウンターにビーカーを置きながら、葬儀屋が尋ねる。

『んー、多分そうじゃないかな・・・』

その問いに指折り数えながら、曖昧に***が答える。
色々考えていたせいで日にちの感覚がないのは、この際内緒にしておいた。

「まぁ、ゆっくりしていけば良いよ。・・・***の気が済むまでね」
『・・・テイカー?』
「あ、食べる?」

ほら、と葬儀屋がクッキーを差し出す。
ところが葬儀屋がいるカウンターと、***が座っている棺には距離があって、互いが手を伸ばした程度では到底届きそうにない。
そうなればどちらかが動かないといけない。
葬儀屋が動こうとしないので、***はクッキーを貰いに立ち上がった。

「ストーップ」
『え?』

立ち上がった***を手で制し、かわりに葬儀屋が目の前にやってくる。

「相変わらず、***は何て言うか頼ってくれないねぇ」
『うわっ?!』

ひょいと軽々しく抱き上げられ、そのまま***はカウンターまでお持ち帰りされる。
そして葬儀屋の膝の上にチョコンと下ろされてしまった。

「言えば良いんだよ
 “足怪我してるから、持ってきてちょうだい”って
 難しいことじゃないだろう?」
『で、でも・・・』

そんな頼むなんて悪いじゃない。
***がそう言うより早く、葬儀屋がその言葉を先読みした。

「出来ないなら人に頼むのも、小生は大切だと思うけどなぁ」

はい、と改めて差し出されたクッキーを素直に口にする。
屋敷で食べるものと全く別の味が口に広まった。


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