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「寒い…」
真夜中、月さえも分厚い雲に隠された空の下。
いつもの上等な服では無く、平民階級の服に身を包んだシエルが呟いた。
「いくら貧民街でいつものお召し物が目立つとはいえ、やはりその服ではお寒いでしょう
一雨きそうですし」
そう言いながら、自分のコートを貸そうとするセバスチャンを、目立つからとシエルは手で制す。
「ここに張っていれば本当に奴は来るんだな?」
「ええ
入口はあそこしかありませんし、唯一の通り道はここだけですから」
「次に狙われるのは、あの長屋に住むメアリ・ケリーで間違いないな?」
今まで凭れていた壁から様子を伺いながらシエルは聞く。
ついでに辺りを見渡すが、連れて来たはずの***は…いなくなっていた。
「ええ
間違いないと何度もお伝えしているはずですが?」
「たしかに…殺された娼婦達には「臓器がない」以外にも「共通点」があった
だが、奴が殺す必要性はどこにある?
それに僕は……
…っ聞いているのかセバスチャン!
それに***!いつの間に!」
「あ、すみません。つい」
まれに見る美人でしたので、と(嫌がる)猫を抱き上げるセバスチャン。
そのすぐ近くでは、何やら嬉しそうな目で猫を見つめる***。
「飼わないからな!戻しなさい!」
「はい…かわいいのに…
…せっかく***様が見つけて来て下さったのに…」
「連れて来たのは***か!」
『だって…可愛かったし…』
トコトコとその場から逃げる猫を見つめながら、***はボソッと言い返す。
そんな***にシエルはうなだれ、勝手にウロウロするな、とだけ告げる。
「ったく…」
呆れながらシエルは壁に凭れ直し、少し記憶を溯らせた。
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