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―***、おいで


名前を呼ばれた気がして、***は暗闇の中振り返る。

『…なんで?』

振り返った先、微かに光る光の中に見えた人影に思わず声を上げる。
それは数か月前まで、***の保護者で飼育者だった。
だけど、それに***の姿は見えないらしく、何か別の物に手招きをしている。
やがてフラフラと小さな影が、それに呼び寄せられるように現れた。

『わ、たし?』

現れたのは今よりも、もっとずっと小さい***。
思えば、"名前を呼ばれた"気がしたのだから、おかしくはないはず。
そして同時にこれが自分の記憶の一部だと理解する。


―おいで、***


声に呼ばれ、小さな***は声の主の膝元に座る。
大きな手に頭を撫でられ、くすぐったそうに小さな***は体を捩っていた。


―いいかい、***。良く聞くんだ


―君には3つ名前がある、一つは***、皆が呼ぶ名前だ


―それから仕事の時の名前。これは***が仕事をする合図だ


―そして最後が……で、……………の名前だ。私が死んだら………、……だ





『…お約束』

肝心な所だけ、何も聞こえない。
もう少し近寄れば聞こえないかと、***は一歩前に踏み出す。
しかし踏み出したと同時にどこからか漂う甘い香りに体の力を奪われ、その場に倒れこむ。

『一体どこか…ら?』

光の奥で笑みを見せている幼い自分を見ながら、***は意識を手放した。













「…何をそんなに魘されていたんだい?」

スゥと規則正しい寝息を立て始めた***を眺めながらポツリと呟く。

「"商品"の質が落ちると困るからね…君みたいな"目玉商品"は特に
 …しばらくの間、ゆっくり眠っていなさい」

寝汗で張り付いた前髪を払ってやり、声の主は部屋を出た。


「子爵、そろそろお時間です」
「あぁ判っているよ」

部屋のすぐ側で待っていた従者に軽く手を振り、彼、ドルイット子爵は表の仮面を被り、ダンスホールへ向かった。



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