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「あ。来るね」
ポツリと彼が呟いて、一体何が?と聞く前に***は、小さな箱に押し込められる。
「いい?絶対出て来ちゃダメだからね?」
『え、ちょっ…待って!』
叫ぶ声も空しく、彼が蓋を被せて***は出る事が出来なくなった。
『…もぉ…なんなの』
いくら誰かが来るとしても、箱に押し込めなくてもいいんじゃない?
…しかも、この箱妙に大きさがピッタリ…
そんな事を考えながら、蓋に耳をあてて外の音を盗み聞く。
『ん?』
一瞬、微かにだけど聞き覚えのある声がして***は首を傾げる。
だけどまさかこんな所に来るはずが無いと、その可能性を捨てた。
『…』
ドアが開く音がして、足音が幾つも聞こえる。
話し声がしたけれど、すぐ横から彼の声がして、誰だか判らないまま。
―…伯爵…いの棺……気に…い!
『あ、れ?』
彼が伯爵と言った。
忘れていたけど、シエルも地位は伯爵のはず。
となると、誰かがシエルの可能性もある。可能性は低いけど。
彼は棺とも言った。
忘れてはいないけど、彼は棺を作るのが趣味と言うか生業と言うか…そんな人だ。
となると、自分が押し込められたのは棺の可能性もある。
『…まさか、ね』
(棺かもしれない)箱の中で***は顔を引きつらせる。
何か決定打が欲しい…そう思い、少し体を前に傾けた。
『え?』
どうやら蓋は軽く被せていただけらしく、重力に従い、派手な音を立てて倒れていく。
当然、何の支えも無かった***も外に放り出される形になった。
(チラッと見たけど、やっぱり自分が入っていたのは棺だった)
『ふわっ!』
「「「!?」」」
「あちゃぁ〜…」
「***!?」
「***様?」
『あ、えっと…』
自分を見ている6つの視線にどうしたものかと、***は取りあえず曖昧な笑みを浮かべた。
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