(1/6)
「ねぇ…なんかするの?」
『へ?』
朝から甘ったるいにおいがするんだけど、と彼女が呟く。
その言葉に***は首を傾げて、あぁと思い出した。
『明日ね、養護院の子どもが来るんだって』
「最悪」
『え、即答?』
「当たり前よ!ガキに見つかったら体力無くなるまで追いかけられるのよ!?」
珍しく吼えた彼女に驚き、***が固まる。
そんな***を見て、ハッと彼女は我に返った。
「あんたは悪くないわね、ゴメン」
『え、あ、うん。えっと大変なんだね』
「…猫だもの、仕方が無いわってあんたも少し猫だったわね」
『少し猫、って何だかなぁ』
「間違って無いでしょ?」
『まぁ、ね』
苦笑いを浮かべながら***は答える。
所々抜けてはいるものの、忘れていた記憶を思い出した。
何で自分がイギリスにいるのか、とか、
(もともと日本にいてたのに)
路地裏に転がる前に何をしていたとか、
(仕事、だったとは言えゴメンなさい)
良い記憶も、悪い記憶も・・・ほぼ全部。
(でもシエルは居ても良いって言ってくれたんだよね・・・)
ボンヤリと別の世界に飛んでいた***は彼女の言葉に引き戻される。
「ま、こう言っちゃ何だけど、あんた猫で良かったわ」
『あ、何で?』
「犬だったら、絶対拾って無かったからよ」
『……』
「それに鼠だったら食べてたかもね」
キッパリと言い切った彼女に***は冗談か本気かなんて聞けなかった。
(人対猫でも彼女なら本気で食べそうな気がしたからだ)
『もぉ!私戻るからね?』
明日、養護院の子どもが来るのがそんなに嫌なのだろうか。
明らかに何だか八つ当たりされているじゃないかと、***は半分逃げる様に屋敷に戻った。
「とりあえず、元気そうね」
ばたんと閉められたドアを眺め、欠伸をしながら彼女が呟いた。
>>
《目次へ》