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2ヶ月前。
ロンドンの片隅で起きた事件。
1夜にして、とある貿易商の住居、および隣接する倉庫が無残なまでに破壊された。
死者数は警察が正確な数の発表を止めたほど。
辛うじて生き延びた者も、「子どもが」「暴走が」と憑かれたように魘され、数日後には息を引き取った。
住居には地下室の痕跡があったが、破壊が激しいため使用目的も判らない。
結局警察は1ヶ月後、手がかりも何もないため捜査を打ち切った。
そして事件の翌日。
事件現場から少し離れた路地裏で、記憶をなくした少女が目を覚ました。
シエルと***が誘拐された翌日。
昼を過ぎてようやく***がシエルの前に姿を見せた。
買い与えた服を着て、背中にはビターラビットの鞄を背負い、いつもと何一つ変わらない姿。
ただ視線を合わそうとすると避ける、それだけがいつもと違う。
『あの、あのね…』
おずおずと指先を弄りながら***が口を開く。あくまで視線は合わせないつもりらしい。
それならば、とシエルも側にあった新聞を広げて、視線を新聞に向けた。
『あたし、ココにいちゃダメだと思うの…
あたしが何なのか、シエルも判ったでしょ?昨日だって執事さんを攻撃しようとしたし…
それに…シエルだって嫌でしょ?自分を倒す為に作られた奴が側にいるなんて
だから、ね』
―あたし、ココを出ようと思うの
ピクリと新聞を持つシエルの手が反応するが***は気付かない。
少しの間だったけど、お世話になりました。と酷く他人行儀にシエルに頭を下げ、そのまま背を向けた。
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