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来客に呈するメニューに合わせた食器を選び、銀食器と共に磨きあげる。
テーブルクロスは染みも汚れも無い新品を手配。
最初に来客の目に止まる庭は屋敷の顔。
痛んだ花は摘み、雑草はもちろん除草、芝生は綺麗に仕上げる。
ディナーは調味料の一つまで拘り、市場で選び抜いたものを。
最高の食材を使うのは言うまでも無い。
―チリリーン
テキパキと一人準備をこなすセバスチャンの耳に鈴の音が届く。
それは主人が従者を呼び付ける音。
「やれやれ、この忙しいのに坊ちゃんは…
何の用でしょうね」
作業の手を休め、シエルの元に向かうセバスチャン。
そんな彼の後ろ姿を眺める3つの影があった事を彼は知らない……
部屋に入ると何時も通り偉そうに椅子に座っている小さな主人と、その主人の使っている机に凭れるようにして本を読んでいる***に声をかける。
「何かご用ですか?」
「***がな、パフェを食べたいと言っている、作ってやれ」
『え!?シエル!?』
まさか自分の名前が出てくるとは思わなかった***は声を上げた。
「***様が?」
「あぁ、***。そうだろう?」
本当ですか?と問い掛けて来る赤と
空気を読めよと脅迫染みた青と
二人に見つめられ顔が熱を持って行くのが分かる。
『えっと…あのっ』
思わず本で顔を隠し、ポツリと***は呟いた。
『私がっ…食べたいって言ったのはケーキで、パフェはシエルが言った…』
しばらく間が開いてチラリとセバスチャンがシエルを見た。
「と***様は仰ってますが」
「…いいじゃないか、ケーキでもパフェでも」
とにかく作れ、と開き直るシエルと
夕飯を残すから、と拒否するセバスチャン
同じ会話のやり取りがグルグル続く。
『…私はケーキ食べたいな…』
ポツリと呟いた***の声で言い争いが止まる。
「仕方が無いですね」
ハァと溜め息をついたセバスチャンを見て、シエルがこっそりガッツポーズをした、が。
「食後のデザートをケーキ類にしましょう、それで宜しいですか?」
『はいっ』
このやり取りにガックリと肩を下ろす。
そんなシエルをチラリと見やり、セバスチャンは持て成しの準備があるからと部屋を出て行った。
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