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来いとは言われたものの、話はシエルとセバスチャンだけが進めている。
暇な***は二人の邪魔にならないように新しく読むための本を物色し始めた。
「―では、クラウス様が直々に本国へ?」
「あぁ例の品が手に入ったと連絡があった
今回は大分てこずったようだな
6時にはこちらにつくそうだ
商談は我が家で行う
どういうことかわかるな?セバスチャン」
読んでいた新聞から目を離しシエルが口許だけで笑う。
対してセバスチャンは胸に手を当て静かに目を伏せた。
「心得ております
必ずやクラウス様にご満足頂ける最高のおもてなしを
ときに坊ちゃん
先程のレモネードには一体何が?」
『!!』
ムネヤケが止まらないんですが、と言うセバスチャンの声にビクリと***が反応する。
そんな***に一瞬視線を動かしたシエルは淡々と事実を告げた。
「タナカ特製「味○素」入りレモネードだ
僕は一口でやめたがな」
砂糖と間違えたんだろう、なんてさらりと言う主人に青筋を立てながら、セバスチャンは退室をしようとした時だった。
「そういえば…***は何か言う事があるんじゃないか?」
「***様が?」
『え?』
いきなり視線を浴びた***はオロオロと戸惑う。
そんな***にニヤリとシエルは笑った。
「レモネード」
「坊ちゃんレモネードが何か?」
まだ落ち着かない胸を押さえながらセバスチャンが聞き返す。
しかし***はその言葉の意味を理解し、顔を赤くした。
「***様?顔が真っ赤ですよ?」
『あ、執事さんあのね?』
「何ですか?」
小さい***に合わせるようにセバスチャンはしゃがみ込む。
***は近くなった距離でポソポソと何かを呟いた。
「…大丈夫ですよ、私は気にしません」
ポンポンと***の頭をセバスチャンは撫で、部屋を出て行った。
残された***はまだ顔を真っ赤にし、そんな***を見て楽しそうな表情を浮かべた。
―あ、あのね執事さんが飲んだレモネード
―あれ私が少し口をつけてたのっ…
―だからっ…その・・・ご、ごめんなさいっ…
「随分可愛らしかったですね」
耳にかかった***の吐息のくすぐったさを思い出し、思わず耳に触れる。
「しかし可愛らしいのですが」
―なぜ名前で読んで下さらないのでしょうか?
***はいつも執事さん、と呼ぶ。
間違ってはいないのだけど執事さんと呼ばれる度に、言葉で言い表せない感覚に支配された。
「…取りあえず晩餐の準備ですね」
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