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しばらく無言で動かなかった両者だが、先に動き出したのは達人の方だった。
オーバーリアクションと長い台詞を共に走り出す。
対してセバスチャンは手袋をはめ直し、カッと目を見開いた。
(…決まった)
結末の見えた試合に***はボンヤリとそんな事を思う。
それと同時にセバスチャンが動き、達人が膝をついた。
何でもセバスチャンが使った技が最終奥義だったらしく、達人は騒ぐがセバスチャンは
「ファントムハイヴ家の執事たるもの
この程度の技が使えなくてどうします」
と一蹴りしてしまった。
(執事さんなら最終奥義使えなくても良いと思うなぁ)
心の中で突っ込みを入れながら***は机に置いてあったレモネードに口付ける。
「…!?」
何かがおかしい。
それを訴えようとシエルを見れば彼はセバスチャンが勝った事に不服の表情を見せていた。
なんせセバスチャンが勝ったからシエルには晩餐まで勉強漬けの時間が待っているのだ。
「わざわざ秘境まで行って連れて来た拳法の達人…
今日こそ地に膝をつくお前が見れると思ったんだがな」
シエルは勝利宣言とこれからの予定を告げたセバスチャンに嫌味を言う。
「それは残念でございました」
「まっ、ご苦労だったなセバスチャン、まぁ飲め」
ニッコリと笑うセバスチャンに"イッキにな"とレモネードを勧めるシエル。
それは当然さっき***が口つけたレモネードで…
『あっ』
「恐れ入ります」
***が止める暇すら無く、セバスチャンは一気にレモネードを飲み干してしまった。
―カラン
氷とグラスのぶつかる音が空しく***の耳に届いた。
「仕事といえばセバスチャン」
その後仕事をサボっていた使用人達を持ち場に戻したセバスチャンにシエルが仕事の話を持ち出した。
「イタリアのクラウスから電話があった」
「クラウス様から?」
「それについて少し話がある、来い。***もな」
「かしこまりました」
『あ、うん!』
シエルが席を立ったので、***も慌てて席を立つ。
言いかけたことは勿論言えないままで。
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