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セバスチャンが***の部屋から出て行ったキッカリ30分後。
「ではまた」と言う声と共にシエルの部屋から誰かが出て行く音がした。
足音が遠くに行ったのを確認してから、***はシエルの部屋を覗きに行く。
覗きこんだ部屋ではシエルが机に突っ伏したまま、微動だにしなかった。
『シエル?終わった?』
持ち出した本を元の場所に戻して何冊か新たな本を抜き取りながら、***はシエルに声を掛ける。
「…ん、あぁ…***か…終わったよ」
たっぷり10数えてからシエルが顔を上げ、***を見上げる。
しかしその目はどこか空ろで焦点が定まっていない。
『あれ、シエル寝てた?』
「なっ!ぼっ…僕は寝てないぞ!」
『えー?よだれ垂れてるもん』
「!!」
服の裾で慌ててゴシゴシと口許を拭うシエルに***はクスクスと笑いだす。
「何がおかしい」
『シエル、よだれ垂れてるってウソだよ』
「***!?」
『えへへ…ごめんね?』
ウソでも寝ていたと言う事実を指摘され、シエルはプイッと顔を反らした。
「そう言えば屋敷の生活には慣れたか?」
しばらくして機嫌の直ったシエルは***に問いかける。
『うん、皆とも挨拶したし、お部屋の配置とかもだいぶ覚えたよ』
「だったら良い。僕が一方的に住む事を提示したからな。後は…服か」
チラリとシエルは***を見る。
相変わらず***はシエルのお下がりを着ていた。
(因みに今日は白いシャツに黒のベスト、チェックのハーフズボン)
「町に行く用事があれば良いんだが…」
ふぅと溜め息を吐くシエルに***は首を傾げた。
『私はこれで良いよ?気に入ってるもん』
「***は良くても、客人が来た時の問題があるからな」
『?』
「子どもとは言え女が男物の服を来て良い顔をする奴はいない、と言う事さ」
『…貴族って難しいんだね』
服なんて毎日着替えられるだけ贅沢なのにと呟く***にシエルは顔を引きつらせる。
「まぁ、社交期にはロンドンに出向かなきゃいけないし、爵位の事もある」
他にも色々あるんだ、と少し誤魔化すようにシエルは言葉を切った。
『…あ、そう言えば執事さんは?』
「セバスチャンか?奴なら教授を送るついでに1つ仕事を頼んだ。それが?」
『うぅん、いつもならそろそろお茶持って来るのになって思っただけ』
「帰って来たら淹れて貰え」
『うん、そうするね』
本当はクッキーのお礼を言いたいなんて言えるはずが無い。
シエルには内緒と言う約束なのだから。
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