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『ねぇシエル。これ読んで良い?』
「ん?あぁ…………え?」
差し出された本をろくに見ずに承諾をしてふと気がつく。
この部屋に***が読めるようなものはないはずだ……
床に座り込んでしまった***が持っている本のタイトル。それは……
「今に見る英国の政治と経済学……***、判るのか?」
『……………………少し?』
「いや、判ってないんだろう?」
『判らなくても文字は読めるもん…』
読む事と理解する事は違う
喉まで出かけた言葉を押し込んで、シエルは書類をまとめ始める。
部屋には紙が擦れる音しか聞こえなくなった。
「そう言えば***は今まで何処で何をしてたんだ?」
『えっ』
シエルの唐突な質問に***は一瞬驚いて少し辛そうな顔を見せた。
「あ、今のは失礼だったな…す『あのね、覚えて無いの』…!」
2か月前までしか思い出せないの、と俯きながら***は続ける。
『気がついたら知らない所にいて、知らない人に助けてもらったの
その人最初、私が死んでると思って拾ったみたいだけどね
少しお世話になってからは一人で生きて来た。
本当はね、***って名前も私のか判らないの。だけど』
チャリと金属のぶつかる音がして、***は首から下げていたプレートをシエルに見せる。
「NAME ***
No.31
CN は誰か抉ったのか?読めないな…」
所々に傷が入っているソレは作られて時間が経っている事を示す。
しかしCNと書かれた横の傷はまだ真新しい物だった。
「大切な…ものなんだな?」
『うん、記憶の手掛かりだからね』
手渡されたプレートを大事そうに***は首に掛け直した。
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