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(3/6)

『えっと…』

今、私は激しく混乱していた。
目の前に座るのは少し年上の男の子。名前をシエル何とかって言っていたと思う。
自己紹介をされたから、名乗ろうと口を開けた。
なのに瞬間「これを見ろ」ってウサギのリュックを渡された。

「名前ぐらいは聞いた事あるだろう?ビターラビット、そいつは今度出す新製品だ」
『えっ』
「見れば分かるがリュックだ、が、僕としては何かが足りないと思っている」
『それを考えるんですか?』
「ま、そういう事だな」


―ビターラビット

それはファントム社が製造、販売している目玉商品の一つ。
その名の通り、ウサギをモチーフにしたヌイグルミ。
子ども達に大人気で、少年少女問わずその人気は絶対的な地位を確立している。


『…』

ムニュっとビターラビットを触ってみる。
今までに触ったものの中で一番手触りが良かった。

…町を歩いている時良く見かけては欲しいなって思ってた。
けどお金なんて持って無いから、欲しいなって思うだけ。
なのに今、新作が手の中にあるなんて少し夢みたい。

『これ、リュック、なんですよね?』
「そうだが?」

何を言うんだ?という顔でシエルはこっちを見る。

『何でも、ないです』

ふっと町で見かけた子供たちを思い出す。

―昨日、お菓子を分けてくれた子の服が格好よかった。

―それから一昨日お母さんと買い物してた女の子の髪飾りが可愛かったっけ。


だけど、洋服も髪飾りも全部私の手に入らないもの。


―手に入らなくても…欲しいと思う。

―じゃぁもしもヌイグルミを着飾れるとしたら……?

―それこそ着てみたいお洋服や、つけてみたいアクセサリとか。

―もしかしたら・・・少し幸せになれるかもしれない。



そこまで考えれば後は簡単だった。



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