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「坊ちゃん、私です」
「入れ」
ドアが開かれ、壁の殆どを本で埋め尽くされた部屋が現れる。
その部屋にある唯一の窓を背に、偉そうに座っている少年が彼の主人だった。
少年は仕事中なのか手持ちの資料を眺めたまま、彼に話しかける。
「どうした?」
「お客様…と言えば良いんでしょうか?子供が一人迷い込みまして」
「迷子か?馬車を手配して家に送らせれば良いだろう」
「それが…」
「?」
珍しく歯切れの悪い彼に少年は資料から目を離し、眉間に皺を寄せた彼を眺める。
しばらくして彼は溜め息を一つ吐き、淡々と述べ始めた。
「…孤児なんですよ。つまり帰る家がない。本人は猫を追いかけて来たと言っています。
お客様でも侵入者でもない以上【命令】が適用しません。
なので坊ちゃんの意向を伺おうかと思いまして」
「…何歳ぐらいだ?」
「外見上ですと坊ちゃんより下かと、会話もしましたが礼儀はあるようですね」
「ついでに男か?女か?」
「女性でしたよ?」
今度は彼の話を聞いた少年が眉間に皺を寄せる。
そして何を思い立ったのか机に置いてあった箱を抱え、席を立った。
「少し会ってみる」
「…畏まりました、では私はお茶の用意を」
部屋を出て少年は客室へ、彼は厨房へと歩き出した。
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