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今日は彼女が珍しく頻繁に鳴くので(しかも裏門に向かって)そこまで足を運んでみました。
「おや?」
そこにいたのはボロ布をまとった幼い子ども。
俯いてて小さく見えますが、年齢は恐らく坊ちゃんより下でしょうか?
あまり綺麗とは言えない身なりから孤児・もしくはそれに近しい者だと推測します。
「ニャーン」と鳴いた彼女の声で子どもは我に帰り、初めてこちらを見ました。
…身なりに反して可愛らしい顔に少し不意打ちを食らいましたね。
「失礼ですが、ファントムハイヴ家に何かご用でしょうか?」
抱いていた彼女を下ろし、子どもに【執事】として問い掛けてみましたが答えはNO。
『あの、その子が…いい所に連れてってあげるって言うから着いて来て…その…』
「彼女、がですか?」
彼女を指差しながらそう尋ねました。
内心は「彼女は猫ですよ?猫と会話できるはずないじゃないですか」と思いながら。
しかし子どもから返って来たのは、予想を裏切る答えでした。
『そうです。…あれ?喋れないんですか?この子と…』
「…普通は猫と喋れないと思いますよ?」
…私は猫の何も喋らない、そう言う所が好きですからね。
まだ疑っていた私は子どもへ彼女に昨日何を与えたか聞くように言いました。
すると子どもは当時その場にいたかのように事細やかに言い当ててくれました。
……とりあえず喋れるのは本当のようですね。
昨日もいたと言う可能性も考えましたが、昨日には無かった気配です。
目の前の子どもが猫と喋れると言う信じがたい事実を認めた所で問題がまた一つ。
どんな対応をすれば良いのでしょうか
坊ちゃんからは
「客人にはファントムハイヴ家の名に恥じぬお持て成しをするように」
「悪人には丁重なお持て成しの上で排除するように」
このような命令を戴いております。
この子どもは客人でもなければ、悪人でもないので命令の範囲外となりますね。
なので……
「申し訳ありませんが、貴女様の処遇を決めますので、主人にお会いして戴けないでしょうか?」
『え?あの、すぐに帰りますから…それじゃダメなんですか?』
「とは言われましても…すでに貴女は敷地に足を踏み込まれていますから…」
『嘘…』
「嘘も何も…この森を抜けた一帯はファントムハイヴ家の敷地ですので」
―あぁ・・・もうダメかも
子どもの顔にはそう書いているように見えました。
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