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「はぁ…」
彼は長い廊下を歩きながら一人溜め息を吐いていた。
そしておもむろに愛用している懐中時計を確認しては、また溜め息を吐く。
「まだ時間がありますねぇ」
彼の脳裏に浮かぶのは彼女の姿。
流れる黒髪、琥珀に輝く気の強そうな瞳。
彼の癒しの存在と言っても間違いない彼女。
その彼女に会う時間までどの仕事を片そうか、彼がそう考えた時……
―ガシャーーン!!
「…また、ですか」
廊下に響き渡った食器の破壊音。
そのうち自分を探しに来るだろう家女中の姿を思い浮かべ、彼はまた溜め息を吐いて歩き出した。
結局、その後は料理長が厨房を爆破し、食材をダメにしてしまうし。
かと思えば庭師が勘違いをして「切るな」と言った花を全て刈り取ってしまったり。
彼の主人がお菓子を食べたいと我が儘を言うので、その説得に時間を費やしてしまったり。
気がつけば【いつもの時間】になっていた。
「いけない。遅れてしまう」
彼は【いつもの場所】で待っている彼女を期待しながら、【いつもの場所】へ急いだ。
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