no title | ナノ


(3/4)

チェスにまみれた翌日。
流石に2日続けてチェスは飽きるのか、ソーマは別の遊びを***に持ちかけていた。

『トランプ――――?』
「え、なんだ?嫌か?」
『…嫌じゃないけど…』
「じゃぁいいだろ!」

楽しそうにトランプを配る(と言っても2人分)ソーマを眺め、***は溜息を一つ。

『で、何して遊ぶの?』
「そうだなー、とりあえずババ抜きでもするか!」
『はーい』

手札を確認。
幸い、JOKERの文字は見当たらない。ならば札を引かなければいいだけ。
…と都合よく行くはずもなく。

『あぁぁぁぁ―――!』
「よし、俺の上がりだ!!」

あっさりと***は負けた。
それはもう綺麗すぎるほどに、あっさりと。
そもそもカードがうまくシャッフルされていなかったのか、始まった段階で手札が7枚と8枚なのが問題だった。

『2人でババ抜きが間違ってる…』
「でも7並べも一緒だろう?」
『そうねー。止めても結局自分が困るだけだし』
「だろ?じゃぁ神経衰弱でもするか!」
『…後悔しないでよ?』
「?」

ポツリと呟かれた***の言葉。
どういう意味か深く考えずにソーマは首を傾げ、カードを広げていく。

「あ、しまった」
『どうしたの?』
「ジョーカー混ぜたままだった…」
『…箱に残ってる1枚も混ぜちゃえば?』
「おお!それもそうだな!」

そんなこんなでジョーカー2枚を加えた54枚がテーブルの上に乱雑に広げられる。
さっき俺が勝ったからな!とソーマが札の1枚に手を伸ばし、既に臨戦態勢な***はその様子を黙って見つめていた。

「お、おい。冗談だろ?!」
『だから言ったのに』

困ったように笑う***と、がっくりと項垂れるソーマ。
それもそうだろう、さっきとは逆転。文字通り***の圧勝だから。
ソーマが捲った札の内容を覚え、一度も捲られていない札をまず選ぶ。
既に出た数字ならソーマが捲った札を取り、出ていなければ再びまだ捲られていない札を捲り内容を覚える。
そこに「あれ?あの辺りに…」と神経衰弱でよく見かける曖昧さはなく、あるのは恐ろしいほどの正確さだけ。

『記憶力はいいのよ、私』
「それは反則だろう?!」

漸く「後悔しないでよ?」の意味を理解したソーマが叫ぶが、ただの敗者の言い訳にしかならないと気が付き、すぐに黙り込む。

「勝負にならないな」
『…でしょ?』

神経衰弱が、ではない。
トランプ自体が、だ。

「でも何をすればいいんだ?」
『うーん…。あ、本読めば?』
「読書か?文字ばっかり眺めてるのは性に合わんな」

***の提案をソーマはバッサリと切り捨てる。
けれどそんな返答が予想済みだった***は用意していた言葉を並べたてる。

『でもいい男になるなら、お金だけじゃなくてそれなりに知識もなきゃダメじゃないの?』
「む、それもそうか…。そうだな、無能なら民の上に立てないしな。でも俺が読める本なんてあるのか?」
『どういう本が好きなの?』

内心食いついた!と喜びながらも平静を装い、***は尋ねる。
完全読破、と行かずとも街屋敷の本も割と読んでいるので、ソーマの希望に叶う本ぐらい見つけられるはず。
そうすればソーマは読書で大人しくなるし、***も読んでいなかった本が読めるから一石二鳥。
そんな考えを抱きつつ、***の足は自然と書庫へ向かっていた。

『あ、これ!この本こっちにもあったんだー!』
「え?何の本だ?」
『これ!“基礎を固めて強くなれ!チェスのルール”』
「おお!面白そうじゃないか!」

シエルがいれば間違いなく「誰が持ち込んだんだ?」と眉間に皺を刻みそうなタイトルの本。
だが本邸でチェスを知らないと言った***に貸してくれた本だと、本に関しては揺るがない***の記憶が保証していた。

『わかりやすいよ。絵もあって、説明も親切だし。どう?』
「そうだな!これを読んだらチェスに付き合ってくれるか?」
『うん、いいよー』

本が見つかった嬉しさから自然を笑みが零れ落ちる。
そして暫く2人揃って書庫で読書に時間を費やす。
やがてソーマの集中力が切れたので、***自身が読みたかった本を数冊抱え込み書庫を出るとアグニと出会った。

「あぁ、こちらにいらしたんですね!お食事の準備が出来たので探していたんですよ」
『え、もうそんな時間…?』
「全然気が付かなかったな…」
「いえ昨日、王子がお腹が空いたと仰っていましたので、ちょっとお時間を早めました」
「おお、さすがアグニだな!褒めて遣わす!」
「そんな王子…!もったいないお言葉です…!」
『……』

まるで台本でも用意されていたかのような会話を一歩下がった位置で***は静観する。
そして暗くなった外へを視線を向けて、今だ帰ってこない本来の屋敷の主の姿を探していた。




彼女の2日間  END

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