no title | ナノ


(3/4)

「***。終わりましたよ、起きてください」
『…、…むぅ…』
「起きろ。目立つぞ」
『…うぅ…』

トントンと背を叩かれ、緩やかに***の意識が現実へと帰ってくる。
そして段々クリアになってきた聴覚が伝える賑やかさと、目を閉じていてもわかる明るさに***はゆっくりと目を開けた。
セバスチャンの腕の中から地に足をつけ、まだ眠たさの残る目を擦りながら目の前の看板を見上げる。

『のあ…、…さーかす?…、サーカス?!』

サーカス。
その単語に***の眠気も疲れも全部吹っ飛んでしまう。

『どうしたの?!なんで?!』
「…?落ち着け。今からこのサーカスを調べる。…あまり目立ったことはするなよ」
『う、うん。…あ、あのね。公演も見るの…?』
「?あぁ、チケットもあるしな」

目が覚めるなり落ち着きのない***にシエルは目立つなと釘を刺し、その賑やかな会場へと足を運ぶ。
しかし一歩足を踏み込んでしまえば、***の落ち着きのなさ等同じようにサーカスを楽しみにしている子供たちと何ら変わりないものと混ざってしまう。
そんな中、風船を貰ったらしい幼い子が嬉しそうに***たちの横を駆け抜けていった。

『風船貰っちゃダメかなぁ…』
「邪魔になるからやめておけ」
『あ、うん…』
「…。それか公演後にしろ。それなら僕も何も言わない」
『うん!』

風船一つに一喜一憂する***。
そんなはしゃぐ彼女を横目にシエルは冷静に周りの様子に目を配る。
楽しそうにしている親子連れ、サーカスの団員であろう人物に群がる子供たち。
見たところ何の変哲もなく、そのまま公演のあるメインテントの中に入り、適当な場所でシエル・セバスチャン・***の順に腰を据えた。

「それにしても、何故そんなにサーカスを楽しみにしていらっしゃるのですか?」

開演までの待ち時間、そわそわと落ち着きのない***にセバスチャンが声をかける。
それはシエルも気になっていた事なので、席から少し身を乗り出し***の声に耳を傾ける。

『あ、あのね。今日買ってもらった本にサーカスが載ってて…。写真とか絵が綺麗で、本物見たいなぁって』
「あぁ、そうでしたか」
『それでね。見に行きたいっていう前に、見に来れたから…嬉しくて、ね?』
「…だそうですよ、坊ちゃん?」
「そうか」

***が落ち着かない理由が判ると、シエルはチケットの数の意味を思案する。

―まさか陛下は***が喜ぶのを見越して?

―いや、そもそも***に本を買い与えたのは今日だし、***がサーカスを知ったのも今日だ

―だからそんな理由はあり得ないし、何より何故チケットが3枚の理由が手紙になかった?

―やはり偶然枚数を入れ間違えただけか…?

答えが見出せない中、不意にテントの照明が消える。
そして照らされる中央のステージ、そこに立っていたのは一人の男。

「レディース エンド ジェントルメ――ン!お嬢さんアンド旦那は――ん!」

両手を広げ、随分と特徴のある口調で男は馴れたものであろう挨拶を続ける。

「本日はノアの方舟サーカスにようおこしやした。
 ウチは道化師(ジョーカー)と申しまんねん。どないぞお見しり…あてっ!」

話しながらのジャグリング。
途中でミスをして道化師と名乗る男の頭にボールが落ちて、観衆の笑いを誘う。
そして仕切りなおすように咳き込むと、火吹き男の盛大なパフォーマンスと共についにサーカスの幕が上がった。




幕が上がる END
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