no title | ナノ


(3/6)

午後6時。ファントムハイヴ邸の前に1台の馬車が停まる。
その馬車から降りてきたのは市警のランドル卿とその部下のアバーライン。
セバスチャンの案内の元、屋敷に通された彼らはシエルの出迎えを受け食堂へと向かう。

その道中、先にセバスチャンが手を打っていたにも関わらず自首をしようとアグニが行く先々で姿を見せたり、うっかりソーマがシエルに声をかけようとしてしまったり…ニアミスが起きながらも一行は食堂でようやく腰を落ち着けた。
そしてさっそく本題を切り出したシエルに答えるように、ランドル卿が1通の封筒を取り出す。

「…ま、あの程度の事件だしこんなものか」

中から出てきたのは女王のサインと銀行の名前の入った1枚の紙切れ。
呟くシエルとは反対に封筒の中身を見たアバーラインは驚きを隠せない。

「それは!?」
「後継者殿はまだご存じなかったのか?警視総監は代々女王のお使い役でね。わざわざ犬小屋までエサを運んでくれる」

―ファントムハイヴは一般には秘密の特務執行機関

―それゆえ、活動資金や報酬は国家予算に組み込まれていない

―法的根拠がない国民にも明言できない…

―そんな高額費用を我々に工面してくれるのは他でもない

「君達警察(ヤード)だ。名目上は「ごほうび」かな。警察犬(バーナビィ)と同じだ」
「そんな!!それじゃまるで裏金では「まるでじゃない」」

思わず声を荒げるアバーラインを遮り静かにシエルは告げる。

「正真正銘裏金だ」

露呈された事実と13歳の子供とは思えない気迫に押され、何も言えなくなるアバーライン。
そしてシエルは何もなかったかのように2人の来客をもてなす合図を出した。

「代々の風習だ…
 さあ今日は事件の解決を記念して、とびきりのシャンパンを用意した。一緒に祝おうじゃないか」
「しかし、犯人はまだ逮捕されて…」
「もういい、アバーライン。陛下とファントムハイヴが「終わった」というのだから

 犯人はもう存在しないのだ」

事実を否定したくて現実を叫ぶ部下を警視総監としてランドル卿が嗜める。
その瞬間と食堂の扉が大きな音を立てて開かれたのはほぼ同時。

「その事件、実は私…がっ!!」

皆の視線を一気に集めながら乱入者は声を張り上げ、己の罪を告げようとするがそれは即座に中断された。
スポーンと勢いのある音と共にシャンパンボトルから飛び出したコルク栓が乱入者‐アグニ‐の顎に直撃。
そのまま放物線を描きながらコルク栓はきれいにセバスチャンの手中に収まる。

「おや…失礼。大丈夫ですか?」

何もなかったかのように声をかけるセバスチャンにアグニは痛む顎を抑えながら黙って首を縦に振る。
ところが追い打ちをかけるように新たな乱入者がもう一人…。

「あーハラがへった…。あいつらに見つかる前に何か…」

お腹の虫を鳴かせながら食堂に現れたソーマに再び一同の視線が集まる。

「なんだこいつらは?しかもインド人?」
「ランドルさまお騒がせして申し訳ありません。こちらのお二人は…」

訝しがるランドル卿にセバスチャンはシエルに視線を送る。
その意図を理解したシエルは溜息を吐くと、二人の事を紹介した。

「彼はベンガル藩王国王子ソーマ。そして従者のアグニ。
 英国文化を学ぶために我が家に滞在中の“友人”だ」

“友人”の単語に反応したのはもちろんソーマ。

「シエル!やっと認めたな〜〜!やっぱりお前も俺を親友と思っていたんじゃないか!!」
「誰が親ゆ…ぐえっ」

ソーマのシエルの首を絞める勢いの抱擁に若干事態が呑み込めていないランドル卿の目の前にシャンパンが注がれる。

「今回の事件解決において、数々の困難を共に潜り抜けた方達です。
 どうぞお祝いの席に同席する事をお許しください」

セバスチャンの言葉にシエルがシャンパングラスを手に場を仕切りなおす。

「では、改めて事件解決を祝して、乾杯!」


<< >>

目次へ

[ top ]