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(2/4)

「シエル!勝ってくれてありがとう。礼を言う」
「別にお前のためじゃない僕のためだ。だが、結果お前の子守も戻ってきて一石二鳥だったな」

全てが終わり、感謝の意を示すソーマの後ろ。そこにはアグニが控えていた。

「シエル、俺はもし英国に来てなかったら、いろんな真実を知らないままだったかもしれない。
 世間知らずで我が侭な俺のままだった。シエルに会わなければ。それに***にも」
『へぁ?』

思わぬところに自分の名前が出てきて、素っ頓狂な声を上げてしまう。
それでも意志の強いソーマの目を見て***はすぐに口をつぐんだ。

「感謝してるんだ。今まで俺に面と向かって意見を言ってくれる人はいなかったからな。アレは効いた」
『・・・えと、それは・・・』

***から言わせれば、アレは溜め込んでいた怒りが爆発した延長上なので感謝されると困るというか・・・。
とにかくそんな感じだった。

「これからはもっとたくさんのことを見て知っていきたい。それでいつか誰にも負けないくらいいい男になってみせるぞ!」

意気込みと共にソーマがにぃっと笑う。
そんなソーマを***は口に出すと五月蝿いだろうから、と心の中でこっそりと応援する。
ところがシエルは言うだけなら誰でも出来る、何ていうものだからソーマがシエルに食ってかかりに行った。

『あぁーあぁー・・・』
「おやおや、賑やかですね」
『あ!!』

振り向いた***と使用人達の声が重なる。
視線のその先には優勝した証のトロフィーを片手に携えたセバスチャンの姿。
駆け寄る皆に紛れて***もセバスチャンに走り寄る。

『おかえりなさいっ!』
「おめでとうございます!」
「でかしたぜ!!今日は祝勝会だな」

勝利を称える皆の顔は一様に笑顔で***もつられて笑顔になる。
そして貰ったのか奪ったのか不明だが、フィニがトロフィーを両手で持ち上げて周りがヒヤヒヤする。
そんな中でアグニはセバスチャンに声をかけ、その場で両膝を突いた。

「セバスチャン殿、この度のことなんとお詫び申し上げたらいいか・・・」
「アグニさん、そんな事をなさる必要はありませんよ。どうか顔を上げて下さい」

詫びる体制のアグニにセバスチャンも同じく膝を折り、アグニの前に手を差し伸べる。

「私は最初王子を英国にお連れしたことを後悔していました。・・・でも、今は本当に良かったと思える。
 私も王子も貴方がたから沢山のことを教えて頂いた。なんとお礼を言ったらいいか」
「先程から何度も申し上げているでしょう。私は私の、貴方は貴方の事情で戦った、ただそれだけの事。お礼を言われることはありませんよ。
 貴方がたの信じるカーリー女神もカーリー女神とシヴァ神双方の痛みで以て過ちに気づくことができた・・・今の貴方がたの様に」

立ち上がり両手を合わすアグニの前でセバスチャンは空を見上げる。

「・・・嗚呼。もう日が暮れてきましたね。帰りましょう」

2人の執事を先頭に歩き出す一行。不意にセバスチャンが口を開いた。

「それに、痛みを伴わない経験は身にならないと申しますしね」

ちらり。
後ろを歩く小さな主人に視線を向ける。向けられた側は勿論気がついてなどいない。

「我が国の教えを英国の方に教わるとは・・・お恥かしい限りです」
「英国もインドも関係ありませんよ。どこにいてもいつの時代も同じ様なものです。

 人間なんてものはね」

立ち止まり振り返るセバスチャンの後ろ、水晶宮(クリスタルパレス)の名に恥じぬ無数のガラス越しに夕日が差し込んだ。

「・・・そうですね。ガンジス河のほとりで見る夕日も、英国で見る夕日も同じように美しいように」

アグニの言葉につられたわけじゃないが、立ち止まり夕日を見ていたシエルの背に突然衝撃が加わる。
その衝撃に慌てて背を見ればしがみついていたのはソーマ。
シエルの横にいた***も突然の出来事に目を大きく見開いていた。

「何っ・・・!?」
「う・・・うわぁぁぁああああああああああああ!!」
『えっ?』
「なっ・・・!?」

突然耳元で泣かれては誰だって驚くと言うもの。
絶叫と言うよりは咆哮に近い泣き声を上げた後、情けなくもソーマはミーナの名を呼びながら泣いた。
シエルの頭の上で、シエルにしがみついたままで。
迷惑そうにするシエルの周りで笑う者あり、戸惑うものあり。
そんな集団を見守っていたアグニがゆっくりと口を開く。

「・・・本当に英国に来て良かった。王子も私も最高の友人に出会うことができました」
「友人・・・ですか。そんな事を人間(ヒト)に言われたのは初めてです」

思わぬ言葉に珍しくセバスチャンの顔には驚きの色が浮かんでいた。

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