no title | ナノ


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「タイムアップ!これより審査に入ります!」

告げられた終了の知らせ。
審査は初めの3社がカリー粉を使っていると言うことで「言語道断だ!」との結果。
独自でスパイスの調合を試みたダリア社も風味が飛んでいるという厳しい結果に。
そしてアグニの番で審査員達は大きく盛り上がった。

「私のカリーはこちらになります。

 オマール海老と七種類のカリーのターリです」
「オマール・ブルー丸々一匹に赤・気・緑・・・色とりどりのカリーが・・・なんと言う鮮やかさ!」
「お好みに合わせて頂ける様辛さと風味が違うものをご用意しました。全て海老(オマール・ブルー)に合わせて味付けしております」
「インド人の作る本格カリー七種、そしてメインの海老はあのオマール・ブルーか・・・では早速・・・」

「う・・・美味い!!プリプリした身、そして噛みしめた後に口に広がる繊細な甘み」
「しかも甘いスープ・辛いスープ・さらっとしたスープ・とろっとしたスープ・・・その全てが海老の旨みを殺さず調和している」

今までとはまるで違う審査員の評価。
中でも違うのが言わずもがな子爵の評価だった。

―舞踏会で出会った麗しの美女

―気高く美しすぎる貴女を包む七種の宝石

―鳩の形の金のブローチ
―サファイヤとパールのぶれる
―ガーネットのチョーカー
―カメオの勲章

―そして指先にはダイヤとエメラルドのリング
―その全てが貴女の美しさを引き立てる・・・

「私は貴女に・・・

 心奪われた!!
 素晴らしい!最高のカリーだよ」
「ありがとうございます」

子爵の評価に頭を下げるアグニ、そして勝利を一層確信したウエストの口角が上がった。

「さぁ、これで優勝は決まってしまうのか!?
 最後に控えしはファントム社です!」

審査員の前に進み出るセバスチャン。

「私のカリーはこちらになります」
「こ・・・これは!!」

クロッシュの下から現れた“それ”に審査員の間に静寂が訪れる。

「君!この白いモノはなんだ!!ふざけているのかね!?」

用意された皿の上に乗っているのは白い丸い生地だけ。
我に返ったハイアム料理長が叫ぶが、セバスチャンは物ともせずその白いモノを高温の油で揚げてしまう。

「シエル一体何をしているんだ、お前の執事は!?」
「ドーナツでも作る気かよ」

流石の行いに身内内からも上がる動揺にシエルは何も言わず、事の行く末を見つめるだけ。
やがてこんがりとした狐色に姿を変えた“それ”が再び審査員の前に呈される。

「完成しました、これが我が社のカリーです」
「だからカリーはどこに・・・」
「!! お待ち下さい、これは・・・!!」

自身の思い描くカリーがないため声を荒げる料理長。
しかし何か気が付いた子爵が制して、“それ”にナイフで切れ込みをいれた。

「なんだ・・・!?中からカリーが・・・!!」
「なっ・・・」
「何!?」
『・・・おぉ』

思わぬ展開にアグニとウエストからは驚きの声が上がる。
***も思わず声を上げるがシエルは何かに気が付いたのか特に驚いた様子はない。

「これが我がファントム社が自信を持ってお出しするカリー、その名も

 カリーパンです!!」
「「カ・・・カリーパン!?」」
「どうぞご賞味下さい」
「なんだアレは・・・あんなカリー見たことない」

会場を包む驚きと困惑。
けれど調理でチョコレートを使った時とは違う困惑。
会場の空気に飲まれながらも審査員たちはカリーパンに手を付けた。

「口の中で爆ぜる!これは美味い!
 油で揚げたパンのサクサクの表面とフワフワの中身、そして最後のとろりとしたカリーが見事な触感のグラデーションを形成している
 何より素晴らしいのはパンの中にカリーを“閉じ込める”この構造だ
 旨み・香り全てを文字通り閉じ込め、ナイフを入れた瞬間全てが開花する!!」

その料理長の言葉にアグニはセバスチャンがカリーを煮詰めていた意図を知る。
煮詰めていたのはパンに仕込んだ時に中身が染み出さないようにするための工夫だったのだ。

「さらにカリーに入ったチキンが歯ごたえとボリューム感をプラスする
 これは完全に料理だよ」

最初の評価から一転した評価。
そして再び、子爵の中でイメージが膨らんで行く。


―夜会で出会った可憐な美少女

―昼間は子供っぽく囀る駒鳥

―でも夕暮れの君は真実の顔を覗かせる

―仮面の下の蠱惑的な微笑

―其処に居たのは一人の女(レディ)

「私は・・・君を

 抱き締めてしまいたい!!
 斬新なアイディアと確かな品質、実にファントム社らしい革新的なカリーだ!!」
「ありがとうございます」

その言葉に会場が沸きあがり、試食による審査が終わりを告げる。

『・・・気のせいかなぁ・・・』

湧き上がる会場でポツリと***は呟く。

『・・・あの人の後ろにきれーなお姉さんと、・・・・・・女の子の格好したシエルが見えた気がする・・・』

ねぇ?と同意を求めようと振り向いたその先、突然寒気が襲ってきたのか鳥肌を立てるシエルがそこにいた。
子爵を見たときのシエルの態度を思えば、***は自分の思っていたことが恐らく間違いじゃないと確信する。

(・・・でも何があったのかなぁ・・・)

駒鳥事件を知る由もない***はただ首を傾げるだけ。
そして試食タイムを告げる声に人波に流されないよう、慌ててシエル達との距離を詰めた。



その壇上、別世界につき  END
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