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(2/4)

「さあさあ、この“帝国におけるインド文化とその繁栄展”メインイベント。ロンドン味自慢カリー店によるカリー品評会のお時間です!」

司会者の声と共に湧き上がる歓声。
それは場内の参加者にもカリーのサービスがあるという知らせに一層大きさを増して行く。
そんな中で今日の審査員の紹介に移ったときだった。

―味に妥協を許さない宮廷料理人ハイアム料理長

―徴税官としてインドへ赴任されていたカーター様

―そして


「芸術と美と食を愛するドルイット子爵!」
「!!?」
「アレ、彼市警に捕まったんじゃなかったっけ?」
「金で出てきたんだろうな」
『シ、シエル・・・?』
「***、何も言うな。思い出したくない・・・」
『う、うん?』

俄かに取り乱しているシエルの様子に***も追求を避ける。
とは言え***自身、あの子爵は記憶の片隅で覚えているような気がしないこともない。が、いつどこで会ったか?と聞かれたら首を傾げるしかないのも事実。
その間にも司会者は出場者の紹介を続けて行く。

「バージョン・タブ社。ターピンシェフ
 ドリトリー・ビル社。ラッシュシェフ
 ダリア社。リックマンシェフ
 ウォレスト・シリン社・リプリーシェフ
 ハロルド・ウエスト社。アグニシェフ
 そして、ファントム社。執事セバスチャン

 ・・・って、執事?」
「ええ。私は料理人ではありません。あくまで執事ですから」

動揺する司会者に対し、至極冷静に切り返すセバスチャン。
同じ様に動揺する会場を制するように司会者は場を仕切りなおし、調理開始を宣言した。

『・・・ぁふ』
「こうなるとカリーが出来るまでヒマだよねー」
『・・・ねー』
「・・・おとなしく見てろ」

***の零れ出た欠伸をすかさず拾い上げた劉の言葉に素直に同意すれば、シエルの呆れたような声。
でも眠いものは眠いし、暇なの。と***が反論しようとした時観客のざわめきでそれは遮られた。

「あのインド人右手が別の生き物のようだ」
「それになんていい香り・・・」

アグニの素早く香辛料を選び、炒める姿に観客は惹き付けられる。
その様子に勝利を確信するウエストだが、また別のざわめきが起きた。

「ファントム社もすごいぞ!!」
「香りも負けていない」

アグニと同じ様に香辛料を選び、そして火にかけるセバスチャンの姿。
アグニの実力を知っているウエストはその動きに驚きを隠せない。
その驚きは次のセバスチャンの行動により更に変化する。

「オイ、あれは一体何をしてるんだ!?」
「カリーの鍋に何か黒い物を!あれはまさか・・・チョコレート!?」
「カリーにチョコレート!?」
「気持ち悪い・・・」
「何考えてんだ?」
「ママー!チョコレート食べたいっ!!」
「ハハハハッ!さすがファントム社!宣伝の仕方が斬新だ」

観客に広まっていく困惑と動揺。
けして受け入れたとは言いがたい空気に勝利を確信したウエストからは笑いが込み上げる。
しかし壇上で調理を行っているアグニはその意図を瞬時に理解する。

チョコレートはれっきとした調味料
カカオ・油脂・ミルク・砂糖のブレンドが香ばしさや苦味、さらにはまろやかなコクも同時に引き出す
アグニ達インド人には思いもつかない、英国人ならではの発想・・・

そしてこの勝負に負けられないアグニはメインとも言える食材を取り出した。
現れた食材―青い海老―にざわめく観衆。
そこに思わず立ち上がる審査員の子爵。

「あれは・・・青い貴婦人(オマール・ブルー)じゃないか!」

やれ幻のオマール海老だ、その姿が青いドレスで着飾った貴婦人のようだ、やれその中身がどうだの。
台本でも用意していたのかと疑うほど澱みなく続く説明、なるほど“食を愛する”と言う紹介は強ち嘘ではないらしい。

「見たか!希少価値の高い具材とアグニの神の右手。これこそがカリーの最高級ブランドだ!」

子爵の説明に満足したように、勝利宣言とも取れるウエストの発言。
そんな発言を物ともせず調理の手を休める事無く、アグニはセバスチャンの様子を伺う。
それと同時に観衆に紛れて調理の行方を見ていたソーマが呟いた。

「しまった!この勝負俺達は負ける」
「!?」
『どうして?』
「何故だい?」

負ける、と言う単語に反応する***たち。
ソーマは壇上から視線を反らさずにその理由を説明していく。

「確かにシエルの執事が作ったカリーは本物だ。だが完璧なのはカリーだけだったんだ!!」
『カリーだけ・・・?』
「あぁ、問題はナーンだ。ベンガルでは主流じゃないから俺も詳しくは知らんがナーンは小麦などを発酵させた生地をタンドゥールをいう高温の課まで一気に焼き上げるものだ」

―しかしこの会場でそんな大掛かりな設備はない。

―そのため本場同様のナーンが作れるはずがない。

同じ場所で競っているアグニは更に冷静に分析する。

―やはりセバスチャン殿も英国人。香辛料の調合を覚えるのに精一杯だったようですね

―ナーンだけではない。カリーを煮込む火加減が強すぎます

―このままではあっという間に煮つまりせっかくのカリースープが台無しだ


そしてソーマとアグニの主従はアグニの勝利を確信した。


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