no title | ナノ


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『う゛〜〜〜〜・・・』
「大丈夫かい?おっと革命だね」
「革命?じゃぁ僕は革命返しだ」
『だいじょぶ・・・。えっと革命して、返されて元の状態だよね?じゃぁ普通に4出す・・・』

どこか違和感の残る口に落ち着かないながらも、***は2人に誘われ再度カードゲームに興じていた。
が、残念なことに現在連敗街頭を1人邁進中で残念な結果にもなっていた。

『・・・また大貧民・・・』
「あははは。また伯爵が大富豪だね。もう1回やる?」
「いや、様子を見に行くぞ」

そう言うとカードもそのままにシエルは席を立つ。
その後を追うように劉と***が続き、向かった先は厨房。
なにやら考え込んでいたセバスチャンにシエルは声をかけた。

「苦戦しているようだな。どうだ調子は?」
「坊ちゃん。いけません厨房(このような所)へいらしては・・・」

苦言を呈するセバスチャンを無視してシエルは厨房に踏み込む。
そしてフィニのカリーを指先で掬い取って味見をすると口を開いた。

「大会まで後3日か。せいぜい頑張って研究するんだな。
 あぁそうだ。今日のおやつはガトーショコラがいい。後で持ってきてくれ」
「・・・・・・。かしこまりました」

頭を下げるセバスチャンにシエルは軽く笑うと厨房を後にした。

「――おやおや。伯爵はまるで執事君に負けて欲しいみたいな口ぶりだね」
『シエルはいらないの?ロイヤルなんとか』

シエルが歩くと同時に厨房前で待っていた劉が声をかける。
それに続くように劉に手を引かれながら***が素直に疑問を投げかけた。

「まさか。だが、英国王室御用達を獲るよりも、あの執事が負ける姿を見る方がよっぽど楽しいと思わないか?」

振り向いたシエルが見せた笑みに劉と***は顔を見合わせる。

「伯爵輝いてるね〜〜〜」
『シエル、それいじめっ子の台詞・・・』
「うるさい」

それぞれの感想にシエルは若干声を尖らせた。









翌日。

「――なんだって!?
 神のカリーが完成した!?たった一晩であのコクを出す方法を見つけたのか!?」

驚き声を大きくするソーマの横でシエルがピクリと反応する。

「あくまで私なりの方法で・・・ですがね。
 どうぞご賞味下さい」

クロッシュを外し、ソーマの前に差し出されるカリー。
見た目は昨日と変わらない。これが本当にアグニの神のカリーかと不安を抱きつつ、カリーを口にしたソーマの目の前に広がったのは英国のダンスホール。
ソーマの城ではないはずなのに感じる懐かしさ。それは英国人とインド人が楽しそうに踊っているから。

そこでソーマは理解する。
このカリーがただアグニのカリーを真似しただけではなく、インドカリーに英国独自の工夫が加えられたのだと。
そしてそれがケンカすることなく、やさしく溶け合っているのだと。

「いかがですか?」
「これはアグニの・・・神のカリーじゃない。
 だがインドカリーの香辛料による複雑な旨みはそのままに、英国人にしかできない味付けで新たな深みを出している。
 このカリーも神のカリーにふさわしい。美味かったぞ執事(カーンサマー)。でも、たった一晩でどうやって・・・?」
「これですよ」

ソーマの疑問にセバスチャンが燕尾服の内ポケットからあるものを取り出した。

「そ、それはチョコレート!?」
「チョコレートに含まれるカカオは元々香辛料として使われており、独特な香ばしい風味を持ちます。
 そのカカオに油脂・ミルク・砂糖を絶妙にブレンドしたチョコレートはカレーに濃厚なコクを加えます。
 ましてやファントム社のチョコレートはカカオ純度の高い最高級品、最高のカリーを作るためにこれ程適した調味料は無いでしょう」

そうセバスチャンが取り出したのはシエルが経営するファントム社のチョコレート。
セバスチャンは視線をシエルに向けると更に続ける。

「昨日坊ちゃんがリクエストされたガトーショコラの片づけをしている時に気付いたんです。助けられてしまいましたね」

その言葉にシエルは頬肘を付いたまま小さく舌打ちをした。

「すごいぞシエル!お前の執事はたった1週間で神のカリーに追いついた。これならもしかしてアグニに―」
「残念だが、このままでは奴らに勝てない。
 “追いつくこと”と“勝つこと”は違う。お前は今ようやく神のカリーと互角に戦える状況になっただけだ。
 そうだろう?セバスチャン」
「ええ、現時点ではそうなりますね」
「その顔は何か秘策があるんだね執事君?」
「ええ」

含みのある言い方に今度はシエルが尋ねる。

「嘘はないな?」
「もちろん。私は嘘をつきません。
 ファントムハイヴ家執事の名にかけて、必ず我が社に英国王室御用達を!」









一方その頃、ウエストの屋敷でも1つのカリーが完成していた。

「アグニ、出来たか?」
「ああ、完成した。これが俺のカリーだ」

クロッシュの中から姿を見せたのは大きな海老が印象的なカリー。

「ベンガルの特産物と言えば海老。そしてお前が一番得意なのも海老カリーだ。それに加えて今回はただの海老じゃない。
 何せあの貴婦人だ!」

椅子に深く腰掛けたウエストは手元の資料に目をやり続ける。

「そしてお前のおかげでライバル店は根こそぎ出場辞退。残ったのは聞いたこともない三流ブランドと子供に人気の玩具会社だ」
「!?」

ウエストの手から離れた資料を目にしたアグニは目を疑う。
そこに書かれていたのはファントム社の文字。
アグニの脳裏にはソーマが思い浮かぶ。

「ん?どうしたそんな顔して、安心しろ。誰も俺達には勝てない」
「(王子・・・!!)」

勝利を確信しきったウエストの言葉にアグニはきつく目を閉じた。



品評会直前 END
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