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その事件はまだ幼かったシエルには衝撃が大きすぎた。
異常な雰囲気の漂う広い屋敷内をシエルは必死になって走る。
―セバスチャン・・・?
―お父様、お母様ァ
血に塗れ倒れる愛犬、そして既に事切れた両親。
―誰か助けて みんな死んじゃう
開け放した扉の先、視界に映るは何者かと対峙するタナカの姿。
その相手は丁度廊下の角に隠れ、姿は判らない。
―タナカッ 助けて!
―こちらに来てはいけません。お逃げください、シエル様は・・・あなた様には酷すぎ・・・ッ
駆け寄るタナカ、逃げるように促す彼の言葉は途中で途切れ、その体はゆっくりと傾く。
そのタナカの背後ではナイフを突き出した人の影。ナイフについた血が誰のものか想像は容易い。
シエルを庇うように倒れるタナカ、そして強い衝撃。
―こいつは頂いていくか、いい金になる
―本当モノズキってのはいるもんだぜ
交わされる会話。
金銭で取引される自分。
―お前には崇高なる獣の印を上げようね
―あああ゛あああ
刻まれてしまった消えることの無い刻印。
―だして、ここからだして、いたい、きたない、かえりたい。
どれだけ望んでもかわらない現状。
日々繰り返される崇高なる集会(ミサ)。
―誰も助けてくれない、神さまなんていない!
歪曲した世界の中、荒んでいく精神と体。
そして小さな彼の体に1本のナイフが突き立てられた瞬間、世界は変わる。
―おや、これはこれは随分と小さなご主人様だ
―貴方は私を召喚(よびだ)してしまった。その事実は永遠に変わらず、払われた犠牲は二度と戻らない
―さぁ、選んで
現れたのはこの世のものではない悪魔。
悪魔と契約をしたシエルは契約印の刻まれた目を見開き叫んだ。
―命令だ!!殺せ!
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