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「#エロ」のBL小説を読む
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(2/4)

『おかえ・・・え、ぁ・・・鹿臭っ!』

何とか無事に帰りを出迎えることの出来た***の第一声がそれ。
若干セバスチャンが傷ついた様に見えたが、それ以上に鹿の匂いが***には強烈すぎた。
お陰で眠気も吹っ飛び、目も冴えてしまった。

『え、何・・・何があったの?しかも鹿の剥製・・・』
「詳しくは中で話す。とりあえず寒い、温まりたい」
『あ、うん・・・』

なんだかよく事態を理解できないまま***は帰ってきた4人のために道を空けた。
そのまま場所を移して聞いた話に***は思わず顔を顰めた。

・事件の犯人はアグニ
・その首謀者はハロルド・ウエスト=ジェブと言い、雑貨屋とコーヒーショップを経営しているとの事
・その2人の会話の最中にうっかりアグニがミーナの名前を出してしまう
・ミーナに反応して思わず隠れていたのに自ら姿を現したソーマ
・ハロルドを倒せと命じるソーマと、ソーマをつまみ出せと命じるハロルド
・2人の間で板ばさみになり、ハロルド側に付くがその後のハロルドの命令で突如様子が急変したアグニ

鹿の剥製はその最中にセバスチャンが勝手に拝借したものらしい。
何でも顔が割れているので、それを誤魔化すために使ったのだとか。
その剥製は今暖炉の上に飾られ、劉の膝の上で抱っこされている***を見下していた。

『・・・凄かったんだね(ていうか、剥製の視線が腹立つ・・・!)』
「本当すごかったよ、さっきの彼。人間の範疇を超えているよ」
「あれは"精神集中(サマーディ)"だ。ああなると誰も手がつけられん」

劉の言葉に足を組み頬杖をついたソーマが答える。
サマーディ?と聞き返したシエルにセバスチャンが説明を付け加えた。

「宗教的なものですね。一種のトランス状態のことでしょう」

―人間と言う生物は強烈な信仰という盲信によって、強大な力を生み出すことの出来る稀な生き物です

―かつてのヴァイキングは軍神(オーディン)の名のもと狂戦士(バーサーカー)となり

―十字軍の聖騎士(パラディン)は神(ヤハウェ)の名のもと侵略と言う名の戦いを繰り返した

「彼もまたその1人。ソーマ様と言う"神(あるじ)"への絶対的な信仰によって、人間には持ち得ない程の力を生み出している

私達には持ち得ない、誰かを信じ愛することで生まれる“信仰"と言う力」

『・・・ぁ』

「・・・そうですね、アグニさんはただの人間ですよ。・・・ただ、私達が持ちえぬ力を持った・・・ね」
前日の昼間、フェンシングの時に言っていたセバスチャンの言葉を思い出し、***は小さく声を漏らした。
そのセバスチャンは***の呟きを拾った後、チラリとシエルを一瞥するがシエルは頬杖をついたまま。
そして場の空気を動かしたのは今まで黙っていたソーマだった。

「ならば何故・・・俺を裏切る?

 何故俺を勝手に置いていく!?」

「っ・・・お前!」

突如声を荒げたかと思えば、ティーセットに感情をぶつけていく。
それは自分に宛がわれたティーカップだけならまだしも、シエル・劉・***の物へと範囲を広げる。

「どうして!!どうして俺の周りの人間ばかりいなくなる!?何故だっ!なんで・・・!!」

宙を舞い、ぶつかり、砕けるティーカップ。
淹れたての紅茶は零れ、机やカーペットを汚した。

『・・・っ』

そんな中一つの小さな破片が***の右頬を掠る。
ピリリと走った痛みに指を這わせれば、僅かな紅が目に留まった。

『・・・』

プチリと***の中で何かが切れ、ソーマが席を立ったのはほぼ同時。
直後、ソーマの後を追いかけるように***も劉の膝の上から飛び降りた。

「お2人とも大丈夫ですか?」
「避けたから大丈夫だよ。ただ***は大丈夫じゃなかったかもしれないけどね」
「そうかもしれませんね。嗚呼・・・せっかく坊ちゃんにお似合いだと思って取り寄せた、アヴィランドのティーセットが・・・」

セバスチャンが一瞥した先には見るも無残になったティーセットの成れの果て。

「彼は少し躾直して差し上げた方が良い様ですね。
 ・・・最も***が先に向かってしまったようですが」

開かれたままの扉。
セバスチャンはゆっくりとした足取りで場を後にした。


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