no title | ナノ


(3/5)

『・・・・・・』
「あ、あのぉ・・・お口に合わないですだか?」

ムスリと不機嫌を惜しむ事無く曝け出し、食事をする***に傍で控えていたメイリンが恐る恐る問いかける。
時刻はまだ午前10時。
***が活動を開始する時間には程遠いのだが、***の眠気は朝の事件で吹き飛ばされていた。

『ううん、違うの。ただね・・・睡眠を邪魔されたのが、ちょっと・・・ね』

ザクリ!と容赦なくフレンチトーストにフォークが突き刺さり、メイリンは顔を引きつらせる。
そこには普段の笑顔の似合う***ではなく、目つきだけで人を射殺せそうな***がいた。

『なぁに?インドの人は賑やかにしてないと死んでしまうの?・・・ご飯は美味しいけど』
「・・・」
『1回目はきっと知らなかったんだと思う。でも、2回目は許されないんじゃないの?』
「お、落ち着くですだ・・・」

ワタワタとメイリンは慌てるが、***が怒るのは無理もない。
セバスチャンと会った後、2度寝をしていた***はソーマに起こされたのだ。
勿論彼に悪意など微塵もない、ただ単純に「使用人でもないチビ2が朝食の場に居ないのはおかしい」という理由で彼は動いたのだから。とは言え***にとっては余計なお世話なのは間違いない。
最もそれだけならまだ良かったかもしれないが、眠さと寒さで渋々食堂に現れた***を彼らは「信仰するカーリー女神へのお祈り」という形で出迎えてしまった。

無理矢理起こされた挙句、なにやら不思議なものを必死に拝む姿を見せ付けられた。

・・・元々起こされて機嫌の悪い***が更に機嫌を悪くするのは、とても自然な流れとも言えた。

「う〜・・・どうしますだ?またお休みになられますだか?」
『・・・いい。また邪魔されたくないし。それに・・・五月蝿くなるだろうし』

つぃとサラダを食べていた***の目が細められ、不意にあらぬ方へ視線を流す。
その方向にメイリンも顔を向ければ、ヴァイオリンに混じって聞こえる異国の音楽。
流石のメイリンも意味を理解して、思わず「あぁ」と嘆息を漏らした。

『ごちそうさまでした』
「あ!***は何処でお過ごしになるおつもりですだ?」

ひょい、と身軽に椅子から飛び降りた背にメイリンは慌てて声をかける。
後でセバスチャンとシエルに***が何処にいるか報告しなければいけないのだ。

『・・・書庫。まだ読んでない本がたくさんあるの』

体全体ではなく、首だけで振り向くと***はうっすら笑みを向けてスタスタと食堂を去っていく。

「お、怒ってる・・・!あれはかなり怒ってるですだよ!」

触らぬ***になんとやら。
一人食堂に残されたメイリンは恐怖に震える体を抱きしめた。



















『これだけ有れば良いかな?』

両腕で抱え込んだ本の数を確認しながら、***は首を傾げる。
読んだことの無いタイトルを5,6冊引き抜いたが、恐らく夕食までには読みきれるだろう。
なんせ時間は十分にあるのだから。

『・・・寒っ』

本を選んでいる間は気にならなかったものの、我に返ると急に寒さが身に染みてくる。
身震いを一つして、***は本を抱えなおして部屋に向かおうと、書庫を出た。

「なんだ、寝ぼすけのチビ2じゃないか」
『・・・・・・』

ばったりと出くわした相手に自然の***の眉間に皺が寄る。
客人だから、屋敷内で出会うこともあるのは仕方ない。
けれど出来れば会いたくなかったというのに・・・!!

「そんな小難しそうな本を抱えてどうするんだ?そんな物読むより、もっと面白いことがあるから行くぞ」
『え、あぁぁっ?!』

ぐいっ、と乱暴に腕を引かれた弾みでバサバサと本が床に散らばってしまう。
片付けるにも、腕を引かれているせいで拾えない。

「アグニ。その本を拾ってそこらへんの棚に置いておけ。早く、シエルの元に行くぞ」
「御意のままに」
『えぇぇ?!』

他人に片付けてもらう申し訳なさよりも、「シエルの元に行く」という言葉に***は驚く。
普段から***は、勉強中のシエルの部屋には入らないように。と言いつけられているからだ。
それなのにこの客人はなんの躊躇いも無く、シエルの元に向かおうとしている。


(なんなの、一体・・・!!)


結局、どうやって謝ろうかと考えながら***は、シエル達のいる部屋まで引き摺られていった。



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