no title | ナノ


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「どうしたんだ?」
『シエ、ルッ!帰って来た、みたいだからっ・・降りようと思ったら、いきなりドア、あい、て!』

枕を投げ捨てアグニの脇を通り抜け、***は半泣きでシエルに飛びつく。
咄嗟の事にシエルは受け止めきれずよろめくが、そこは男の意地とやらで何とか踏ん張った。

「アグニ、何があった」
「ソーマ様…。空き部屋を探している途中、この部屋の前を通りかかりましたら、中から物音が聞こえまして。泥棒だといけないと思い、ドアを開けたところ彼女が出てきまして・・・」
「鉢合わせして、驚いた***様が叫んでしまったと」
「お互いに災難だねぇ」

呆れたようにセバスチャンはアグニの言葉を繋ぎ、劉はシエルにしがみ付いている***の頭を撫でる。

『ね・・・この人たち、誰?』

スンと鼻を鳴らし、服の袖で涙を拭いながら***が尋ねる。

「あぁ、こいつらは・・・たまた「俺たちはこのチビの恩人だ」・・・おい!」
『恩人・・・?』
「そうだ。それで俺は部屋に案内してもらう所だったんだ。アグニ、部屋は何処だ?」
「あ、はい、王子!あちらです」
「多少手狭だろうが、暫く世話になるとするか」

***に向かって申し訳ありませんでした、と両手を合わすとアグニはソーマを部屋へと案内していく。
残された面々はただ呆然と二人の後姿を眺めていた。

『恩人って・・・シエルと執事さん、何かあったの?』
「!ちょっと待て!何故僕がお前らの面倒を見なきゃならないんだ?!」

思い出したように呟かれた***の言葉にシエルは我に返り、その場を去った二人を追いかけていった。

『・・・?』
「お話は後にしましょう」

***をはじめ、その場にいなかった面々は首を傾げるが、セバスチャンの言葉でぞろぞろをその場を移動する。
辿りついた先の部屋では、ちょうどソーマがベットに腰を下ろしたところだった。

「他に泊まる宿も考えていないし
 英国人は寒空の下、恩人を放り出すのが一般的なのか?」
「〜っ、大体っ。お前は何者なんだ!」

ベットに寝転び、寛ぐソーマはシエルの問いに「王子だ」と答えた。
その言葉にセバスチャンは輪唱し、***は僅かにだが眉根を顰めた。

「このお方はベンガル藩王国国王は第26子
 ソーマ・アスマン・カダール王子にあらせられます」
「しばらく世話になるぞ、チビ」

王子だとアグニに紹介されたソーマの言葉に、シエルの背後でビシッと音が響いた。
そのアグニは近づきの印にチャイを淹れるからと部屋を出て行き、それをセバスチャンが追いかけていった。
そして・・・

「すごーい!王子様なんですか!?」
「お・・・王子様・・・」
「初めて見たぜ、生の王子様なんてよ」
「許す、近くに寄れ」

"王子"と言う立場を目の当たりにした使用人ズがわらわらとソーマに近寄っていった。

「やぁ伯爵、にぎやかな滞在になりそうだねぇ」
「出てけーーーーーーっ!!」

盛り上がる集団に入らなかった劉がハハハとシエルに声をかけるも、既にシエルの怒りのメーターは限界を超え、雪の振る中シエルの怒声が響き渡った。








『あーぁ、怒ってる』

何処からか聞こえたシエルの声に***はポツリと呟く。

『何だかなぁ・・・』

好きになれそうに無い、と突然の来訪者を思い浮かべた。
アグニはいきなり部屋のドアを開けられたとは言え、まだ好感が持てそうだった。
問題は王子だというソーマの方。

『なんか苦手』

何が?と、何処が?と問われても明確に答えることは出来ない。
けれど彼が***の中の何かと反り合っているのは確実だった。





一体誰が招いた客か END
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