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『う、ん・・・あれ?』
寝起きの視界に、見慣れた天井が飛び込んでくる。
間違いなく自分の、***の部屋の天井だった。
額に乗せてあった濡れタオルを掴み、起き上がる。
『・・・帰ってきて、それからー・・・っ!!』
思い出して、顔に血が一気に集まるのが嫌でも感じる。
―そうだ、キス・・・されたんだ。
『は、恥かしい・・・!』
キスされた事も、倒れた事も。
『うぅ・・・消えたい・・・』
火照った顔に濡れタオルをあてる。
けれど既に温くなったタオルは、望んだ働きをしてくれなかった。
『・・・バルドに氷水貰ってこよう』
きっと今なら、厨房にいるはずだもん。
それでタオル絞ったら、冷たくなるよね?
そう考えて、***は厨房に向かおうとする。
けれどその計画は部屋を出る前に、正確にはベットから降りる前に崩れてしまった。
『・・・・・・え、と』
***が望んでいた氷水を持っている人物が目の前にいる。
でも、それは同時に今一番会いたくない人でもあった。
「おや、お目覚めだったんですね?」
上から降ってくる声に、どんな返事をしたらいいのか。
どんな顔をしたら良いのかが、判らない。
それに赤くなった顔を見られなくなかった。
毛布を握り締め、俯く***の頬にセバスチャンが触れる。
少し癪だけど、触れた手は冷たくて気持ちが良かった。
「恥かしいのなら、俯いたままで結構ですよ」
『〜〜っ!』
バレてる。
その事実に、更に恥かしさがこみ上げて来る。
そして悔しくって、溜め込んでいた涙がポタリと落ちた。
「・・・嫌なら、突き放してください」
少し暗いセバスチャンの声。
恐いというよりは、悲しそうに聞こえる。
「先程の行動は少々軽率だったと思います。
***様を動揺させて、当然の事ですから。
ですが、嬉しいという気持ちに嘘はありませんよ」
失礼しました、とセバスチャンの手が***の頬から離れる。
コツン、と足音が響き、視界の隅にヒラリと燕尾服の裾が揺らめいた。
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