no title | ナノ


(3/5)

『う、ん・・・あれ?』

寝起きの視界に、見慣れた天井が飛び込んでくる。
間違いなく自分の、***の部屋の天井だった。
額に乗せてあった濡れタオルを掴み、起き上がる。

『・・・帰ってきて、それからー・・・っ!!』

思い出して、顔に血が一気に集まるのが嫌でも感じる。

―そうだ、キス・・・されたんだ。

『は、恥かしい・・・!』

キスされた事も、倒れた事も。

『うぅ・・・消えたい・・・』

火照った顔に濡れタオルをあてる。
けれど既に温くなったタオルは、望んだ働きをしてくれなかった。

『・・・バルドに氷水貰ってこよう』

きっと今なら、厨房にいるはずだもん。
それでタオル絞ったら、冷たくなるよね?

そう考えて、***は厨房に向かおうとする。
けれどその計画は部屋を出る前に、正確にはベットから降りる前に崩れてしまった。


『・・・・・・え、と』

***が望んでいた氷水を持っている人物が目の前にいる。
でも、それは同時に今一番会いたくない人でもあった。

「おや、お目覚めだったんですね?」

上から降ってくる声に、どんな返事をしたらいいのか。
どんな顔をしたら良いのかが、判らない。
それに赤くなった顔を見られなくなかった。

毛布を握り締め、俯く***の頬にセバスチャンが触れる。
少し癪だけど、触れた手は冷たくて気持ちが良かった。

「恥かしいのなら、俯いたままで結構ですよ」
『〜〜っ!』

バレてる。
その事実に、更に恥かしさがこみ上げて来る。
そして悔しくって、溜め込んでいた涙がポタリと落ちた。

「・・・嫌なら、突き放してください」

少し暗いセバスチャンの声。
恐いというよりは、悲しそうに聞こえる。

「先程の行動は少々軽率だったと思います。
 ***様を動揺させて、当然の事ですから。
 
 ですが、嬉しいという気持ちに嘘はありませんよ」

失礼しました、とセバスチャンの手が***の頬から離れる。
コツン、と足音が響き、視界の隅にヒラリと燕尾服の裾が揺らめいた。



<< >>

目次へ

[ top ]