(2/5)
「・・・」
『えっと・・・』
二人の反応が無い。
あんなに頑張ったのに、間違えたの?
“失敗”の文字が***の頭をよぎる。
不安からじんわりと涙が出てきそうになった、その瞬間。
「言える様になったのか・・・?」
驚きを隠せないといった感じのシエルの声がした。
『う、うん・・・他はまだだけどね』
「そうか」
『で、でも頑張ったんだよ?』
「そうだろうな」
途切れ途切れだったのが何よりの証拠だ。
事を知っているシエルは、フッと笑い、この場で一番動揺しているであろう男を見た。
「おい、セバスチャン。いつまでボケッとしてるんだ」
シエルの声に、セバスチャンは我に返る。
しかし何が起きたんだという顔で、冷静さは微塵も無い。
「良かったな」
「え、えぇ・・・」
事態を飲み込めていないセバスチャンに、シエルが状況の説明をしてやる。
彼としては常に完璧な執事がここまで、動揺しているのが楽しくて仕方がないのだろう。
説明している間、ずっと勝ち誇ったような顔だった。
「―と言う事だ。***は6文字以上が覚えられないんだよ」
「あぁ・・・だから“執事さん”だったのですね」
シエルの説明に納得したセバスチャンが、ようやくいつもの冷静さを取り戻す。
「***様」
『は、はい?!』
「クス・・・ありがとうございます」
片膝をつき、セバスチャンが深々と礼をする。
『え、あ、わゎっ、そんな、えぇぇ?!』
「おい、セバスチャン、あまり***で遊ぶな」
「いえ坊ちゃん。私、これでも嬉しいのですよ?」
気味が悪いぐらい綺麗な笑顔をセバスチャンが浮かべる。
そしてそのまま、***の片手を取り
―チュッ
触れるだけの、キスをした。
「おいっ?!」
「実は嫌われているのかと思っていましたが、違うようで安心しました
わざわざ私のために・・・ありがとうございます」
***に向けた笑顔は、シエルに向けたものと違って、とても優しいもので―
だけど、***のキャパシティは限界を超えてしまった。
『や、だから、そのっ・・・あぅっ・・・』
「なっ?!***?!」
顔を真っ赤にして倒れこんだ***を慌てて、シエルが抱きとめる。
「セバスチャン、お前・・・!」
「おやおや、これは刺激が強かったようですね」
シエルが睨んでも、セバスチャンはどこ吹く風という顔を見せる。
“これは”と言う事は、更に何かを狙っていたのだろうか。
気付けなかった苛立たしさに、シエルは小さく舌打ちをした。
<< >>
《目次へ》