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『よいせっ・・・と』
馬車の中から荷物を外に放り投げ、***自身は足を気遣いながら馬車を降りる。
***が降りたのを確認すると、馬車は来た道を戻っていった。
『うわぁー・・・』
久しぶりに戻ってきた屋敷は、相変わらず。
空は澄み渡るように青いのに今日もフィニが草木を枯らしたのか、茶色くなった芝生が広がる。
その庭の隅で説教を受けるフィニと、説教をするセバスチャンが見えた。
「・・・あ、***だ!おかえりなさーい!!」
説教をされていると言うのに、***を見つけたフィニがこっちに向かって手を振りながらやってくる。
「荷物持つよ。大変でしょ?」
『ありがとう、フィニ。それからただいま』
「***がいない間、大変だったんだよー」
『え?』
何か事件でも起きたのかと、***の顔が一瞬にして暗くなる。
それを見たフィニが慌てて、手を振った。
「そんな大げさな事じゃないよ!ただ、坊ちゃんとセバスチャンさんが―」
「フィニ!!」
楽しげに話すフィニの言葉をセバスチャンが遮った。
「庭の始末をしなさい!」
「うわぁぁぁ!ごめんなさい!!
***、荷物ゴメンね!」
『あ、ううん。大丈夫』
早くしなさいと急かされ、フィニは慌てて茶色になった庭の元へ戻っていった。
かわりにセバスチャンが荷物を持ち、傍に立つ。
『何かあったんですか?フィニが大変だったって言ってたけど・・・』
「何もありませんよ。それより、解決できたんですか?」
『多分。何となく判った気がします』
微妙にずれた答えを返し、***が笑う。
「・・・大丈夫なようですね。さぁ、坊ちゃんもお待ちですよ」
『はーい』
杖をついて歩く***に合わせて、セバスチャンが一歩後ろを歩く。
玄関までの長い道のりを終えると、セバスチャンが前に出て扉を開けた。
「・・・遅いぞ」
「坊ちゃん?」
『あれ、シエル?』
待っているとは聞いてたけど、まさか玄関で待ってくれるなんて。
はて?と***が首を傾げる。
「フィニの叫びが聞こえてから、大分経つのに来ないから様子を見に来たんだ」
腕を組みなおし、呆れたようにシエルが言う。
けれどその顔には“心配したんだ”と書いてあった。
『あ、ごめんね?』
「いや、いい。それより・・・おかえり、***」
少し笑みを作りながら、シエルが***の頭を撫でる。
つられて***も笑みを浮かべながら、ただいまと返事した。
『っと、それから・・・』
「?」
クルリとセバスチャンの方に向き直る。
馬車の中で何度も繰り返したはずだから、大丈夫
そう言い聞かせて、1つ深呼吸。
『ただいまです。えっと・・・セバス、チャン・・・さん』
***の言葉にセバスチャンとシエルが大きく目を見開いた。
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