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『ん。・・・あ、大丈夫だよ。・・・え、本当だってば!
うん、うん。うー・・・判ったよ・・・』
受話器を握りながらコロコロと表情を変える***を、葬儀屋はニヤニヤと眺める。
“明日帰るから、その連絡をしたいの”
そう言われ、電話を貸して20分は経過しているような気がする。
「大切にされてるんだねぇ・・・」
本人がどこまで気が付いているのかは、判らないけれど。
「でも、アレには確実に気付いて無さそうだなぁ〜」
ポリポリとクッキーを齧りながら、思い出すのは切り裂きジャックの情報を聞きに来た時の事。
葬儀屋が***をそばに置いて、何かと言ってきたのはシエルだった。
そしてシエル以上に、不満を、不愉快を露にしていたのは彼の執事の方。
言葉にこそ出しはしていなかったが、それは視線と言う形で葬儀屋には伝わっていた。
「ヒッヒッヒ・・・執事君も大変だねぇ
伯爵はちゃーんと名前で呼んでもらっているのに。
字数オーバーってだけで“執事さん”なんてね
・・・まぁ、小生もそうなんだけど」
クッキーを食べ終え、紅茶を一気に飲み干す。
丁度電話が終わったらしく、***がこちらを振り向いた。
『お、終わったー』
「随分長話だったねェ〜」
『心配しすぎだよ・・・』
「まぁまぁ、それだけ大事にされてるって事じゃないかい?」
よいせ、と立ち上がり葬儀屋は***を迎えに行き、抱き上げる。
自分で歩く、と***は言うけれど、敢えて聞こえないフリをする。
「***はさ、まだ覚えられないのかい?」
何が、と言わなくてもその意味は通じたようで、***は一瞬目を泳がせた。
『・・・えーっと、そのー・・・
テイカーは嫌なの?』
「いや、小生の方じゃなくて執事君のほう
小生は理由を知ってるけど、執事君は知らないんじゃないのかい?」
その言葉に***は微かに首を立てに振った。
『・・・今更言えないもん
6文字以上の言葉が覚えられないんです、なんて』
一応罪悪感はあるのか、そう呟き***は葬儀屋の胸に顔を埋める。
「でも、名前があるのに呼んで貰えないってどんな気分だろうねぇ?」
長い爪で傷をつけないよう、気を使いながら葬儀屋は***の頭を撫でる。
『・・・判ってるけど・・・
あー・・・うん、頑張ってみる』
「あれ、随分聞き訳が良いじゃないか」
少し驚いたような声を出した葬儀屋を、あれ?と言う顔で***が見上げる。
『え、遠まわしにテイカーもちゃんと呼んで貰いたいって事じゃないの?』
「・・・!ヒッヒッヒ・・・
そっか、そう受け取っちゃったか〜」
―これじゃぁ、しばらく執事君は報われそうに無いねぇ―
『そう受け取る・・・?』
「気にしなくて良いよ。
まぁ・・・確かにちゃんと呼んで貰いたい気もするけど、***なら許せるしね」
『・・・?』
よく判らない、と言う顔の***に対し、葬儀屋はどこか楽しそうな表情を見せた。
少し離れて考えた END
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