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「***!!」
走馬灯劇場が突然の終了後の静寂をシエルの叫びが打ち砕いた。
「おい!大丈夫か?!しっかりしろ、***!」
『触らない方が…い、よ。汚れ…ちゃうから』
洋服を血で濡らし、その場に蹲る***は触れようとするシエルの手を弱々しく払いのける。
「けど!」
『さっきのを、見れなかったシエルが、私を…見れるはず、無いから…』
…だから、ね?
傷口を隠し、血の気の無い顔で無理矢理***は笑顔を作る。
視界がぼやけて、周りが殆ど見えていない事を悟られないように…
『それに…切り裂きジャックは…まだ、いるんだから…シエル、が見るのは、私じゃないよ
余所見してたら…怪我…するよ?』
「…判った」
耳だけが頼りな世界の中、遠くなる足音に安堵の溜め息を漏らす。
が、遠くなったはずの足音はまた戻って来た。
「…被っていろ」
『シ、エル?』
頭から何かを被せられる。
手に触れた質感は記憶に新しい。
「セバスチャンのコートだ…防寒ぐらいにはなるだろう」
『ありがと…』
「***。終わったら医者に連れて行ってやる。だから…死ぬなよ」
『ん…』
再び遠くなった足音が戻って来る事は無い。
コートを被ったが体は冷たくなる一方で、***の意識は段々朦朧として来た。
(ギリギリ内蔵までは…傷付いて無いと思うんだけど…
着地の時…絶対、足折れたよ…しくじった…
あー…血、流しすぎて…何も見えない…
でも…今までチェンソー持った相手、とか無かったし…
…どうかな、私…死んじゃうかなぁ…
いくら…普通の人とは違うって言っても…基本は人間だし…
…寒っ…シエル、このまま死んだら…その、ごめんね…
執事さんも…私が余計な事しなかったら…)
その先を考える前に***の体は限界を迎え、誰にも気付かれぬまま意識を失った。
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