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『な、何事っ?!』
慌てる***を他所に、男はいたって冷静だった。
「あの銃は特殊でね…こいつは、屋敷に仕掛けてあった爆弾のタイマーなんだ
発砲後5分でこの屋敷は爆発する。私を消して、自由に…なりたいのだろう?
初めて私に見せてくれたお前の意志だからね…」
『それじゃぁ…最初から…』
***の言葉に男が笑う。
それはいつも見せていたものよりもずっと柔らかい、愛おしむような笑みで…
「実は今日の仕事で、こうなるかもしれないとは思っていたんだ
だが、可愛い娘の最初の我が儘だ
お前はもう自由だ、どこにでも行ける」
『おとうさん…っ!』
駆け寄ろうとした瞬間、さらに大きい爆破音と共に屋敷が揺れた。
「ほら、巻き込まれたら意味が無いだろう?私も***も死に損になる」
『でもっ…!』
「困った娘だ…私を殺しにきた勢いはどこに行った?」
また爆音と共に屋敷が揺れ、パラパラと天井の破片が落ちて来る。
「ほら急ぎなさい
私も最後の最後に、***をあの名前で呼びたくないよ」
『っ…!』
部屋の装飾品が揺れで倒れ、落ちて来る破片も大きくなる。
心なしか火薬臭も漂い始め、***は窓枠から体を乗り出した。
『…お父さん』
「なんだい?」
『戻って来た時…お父さんが嫌いだった…けど、やっぱり大好きだよ』
「そうか」
『あの、ね。5年間…育ててくれて、ありがとう』
「!ははっ、最後に礼を言われるか」
困ったような、だけど嬉しそうな声で男が笑った。
『…ばいばい、お父さん』
「…さようなら、愛しい娘」
互いの顔を見ないまま、勢いをつけて***が窓枠から飛び出す。
その直後、部屋の直ぐ近くで爆発が起きた。
―ブツンッ
崩れ落ちる屋敷が映り、遠くで悲鳴が響く中、突如フィルムが崩れはじめた。
「ちょっと!誰よっ!感動のシーンが終わった所なのに!
エンディングまでは見ないって言うの?!」
喚くグレルの声に小さな、だけど良く通る声が答える。
『…悪趣味なのよ。何から何まで見ちゃって…』
それは地面に無理矢理着地し、蹲った***だった。
痛みと不愉快さから、眉間にこれ以上無いほどの皺を寄せて。
そして、直後にチャリンッと音を立てて、血まみれのプレートが落ちてきた。
彼女の記憶 END
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