no title | ナノ


(9/13)

『っく…うぁっ…あぁぁ!』

赤に染まった手を見つめ、自分以外いなくなった屋敷で泣き叫ぶ。
自己が拒否するより早く、その言葉は体を支配して動き出す。
我に戻った時、既にナイフは寸分の狂いもなく彼女の心臓に突き立てられていた。
それはついさっき、***の手に握らされたナイフそのもので…




―助けられなくてごめんね?




一筋の涙を流し、綺麗な笑みを浮かべると彼女は糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。
揺すっても叩いても、もうその目は開かないし、その口も動かない。
そして名前を呼ぼうとした時、彼女の名前を知らない事に気がついた。

いつも側にいてくれたから、名前を呼ぶ必要が無かったから…

その事に気付いた瞬間、さらに涙が溢れ出した。


『お姉さんっ…おねぇ…さん!』

名前を呼びたいのに、呼べなくて。

謝りたいのに、名前が判らなくて。

今まで名前を知らない事に気付かなかった自分が嫌で。

段々冷たくなって行く体にしがみついて、何度も何度も「お姉さん」と繰り返した。













しばらくして、ユラリと***は立ち上がる。

『名前があるから…ダメなのよ…。***は仔猫じゃないんだもの。だから皆、***を・・・仔猫って呼ぶのは間違いなのよ・・・』

掠れた声で首元にかかっていたプレートを外す。
申し訳ないと思いながら、彼女からナイフを抜きプレート目掛けて振り下ろす。
風を切る音がして、プレートに刻まれていたKiller-Kittyの文字は読めなくなった。

『戻らなくっちゃ…お姉さんが言ったから…
 どうしようか…考えなくっちゃ…』

くすくす笑いながら、***は長くて暗い廊下を歩く。
そして玄関まで来た時、ふと思い出したように声を上げた。

『そうだ…お父さんがいなくなれば良いんだ!
 そうしたら***はお仕事しなくていいもん
 あ…でも、お父さんだけだったら、皆にバレたら大変だよねぇ
 じゃぁ……皆消しちゃえばいっか!
 だって***、今までもお仕事で皆消してきたから、出来るもん』

嫌に明るい***の声が響く。
お邪魔しました、と律義に礼をして、***は仕事場を後にした。



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