no title | ナノ


(5/13)

『何でかなぁ。最近マナーとかの勉強が多い気がする…』

よく判んないし、面白くないし。
そう愚痴をこぼす***に、紅茶を淹れながらメイドが答える。

「それは…***様が旦那様の娘だからではないでしょうか?
 私も詳しくは知りませんが、旦那様は***様にお仕事をさせたいようですし
 きっとその時に***様が恥をかかないように、という配慮では?」

***様ももうじき8歳ですからね。
本当大きくなられました、と親のように喜ぶメイドから***は視線をずらし、辺りを眺める。
壁に掛けられた鏡に映った、黒い髪に黒い瞳の自分と目が合った。

『えっと…お手伝いに行って来まーす』

鏡から目を逸らし、紅茶を飲むと***は少し逃げるように部屋を出た。






扉を開けたが、研究所の雰囲気がおかしい。
かつて無い程ピリピリした空気が漂い、皆慌ただしく動き回っている。
そんな中、***はココにいないはずの人影を見つけ、思わず声を漏らした。

『あれ…お父さん、何で?』
「あぁ、***。待っていたよ」

いつもと変わらぬ笑顔を浮かべ、男は***に手招きする。

「今日の分で、お前のお手伝いが終わるからね
 それで明日から…仕事が出来るか見に来たんだよ」
『え?』

お手伝いが終わるなんて聞いて無い。
そう零した***に男はあっさりと、言ってないからと告げた。

「さ、おいで」

男に半ば強制的に腕を引かれる形で***は歩き、更にその後ろを何人かの研究員が付いて行く。
そして扉を一つ通った先で、一行の足取りが止まった。

「さ、***。ココに座って」

さして広くない部屋の中心に置かれたイスを男が指差す。
モニターやケーブルと繋がったソレは妖しさを醸し出しているが、***は特に気にせずに腰を下ろす。
同時に研究員達がイスについたベルトで***を固定した。

『え…?』
「最後のお手伝いは少し危ないからね、***が怪我しないようにするんだよ」
『ふぅん…』

不安げな声を上げても、あぁ言われては***も納得せざるを得ない。
そしてモニターの電源が入り、起動音が辺りに響く。
起動音の安定と反比例して、研究員達の顔つきが厳しい物になって行った。

「さぁ、始めようか」

その言葉が合図。






そしてぼやける視界の中

「完成だ!可愛い私のお人形
 可愛いお前には黒猫が似合う」

そんな男の声が聞こえた気がした。



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