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「…追わないのか?」
グレルがいなくなった後、動こうとしないセバスチャンにシエルが声を掛ける。
「追わない、ではなく、追えない、のですよ」
「何、だと?」
上を見上げながらのセバスチャンの言葉に、シエルは訝しげに上を見る。
姿こそ見えないが死神の鎌の音が響き、グレルが誰かと対峙している事を伝える。
そしてここに姿が見えない人物を思い出すのは非常に容易い。
「まさか…***!?」
思えば***は『行って来る』と自ら飛び出した。
さらにグレルも「***ちゃんだけ殺って」と言っていた。
"ジャックの犯人を知っているから" と言うだけなら、***だけを殺す理由にはならない。
「セバスチャン…お前、何を知っている」
「***様から口止めされています」
「…命令だ、話せ」
「……」
命令ならば逆らえない。
仕方なく、セバスチャンはシエルに事を掻い摘まんで説明した。
「***様は…ご存じの様に、普通の人ではありません」
「まぁ、な」
***自身の言葉を思い出し、歯切れ悪くシエルが同意を示す。
***はある意味、裏の世界の犠牲者だ。
人でありながら、その体は人を超えた力をもっている。
「人が他の種の力を持つ。
それが宜しくなかった様です
他の種の力と言っても、これと言って突出はして無いはずですが」
少し離れた所に落ちて来た瓦礫を見つめながら、セバスチャンが言葉を繋ぐ。
「…なんでも死亡者リストに載ったそうです。
普通のそれとは違うそうですが、リストに載った以上は狙われますからね」
「何故黙っていた」
「ですから…」
「お前じゃ無い、***がだ!」
声を荒げ、シエルがセバスチャンを睨み付ける。
本人ではないセバスチャンに怒りの矛先を向けるのは、間違っていると分かっていても止められない。
「邪魔したくなかったそうですよ」
「邪魔したくない?」
「えぇ。***様は坊ちゃんに事件だけに集中してもらいたかったそうですよ」
「…」
シエルは無言で手を握り締める。
心配かけまいと気を使ってくれた事が嬉しく。
同時に何故頼ってくれないと怒りたくなった。
「セバスチャン」
「はい」
「僕は***に気を使わせる程、馬鹿じゃない
危なくなったら助けに行け、これは命令だ」
シエルの言葉にセバスチャンは深く一礼をした。
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