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「アタシ、てっきり逃げたと思ってたのに
ずっとそこにいたのね?」
家屋の屋上。
死神の鎌を突き付け、グレルは目の前の人物に問い掛ける。
『逃げた。なんて決め付けないで欲しいわ』
ずぶ濡れになり、顔に張り付いた前髪を鬱陶しそうに除けながら言い返す。
月明かり程度の明るさの中、黄色の瞳が存在を主張する。
声も、視線も、表情さえも冷たい***がそこには立っていた。
「それが"お仕事"してた時の顔?すっごく可愛いワ〜
でもね?殺気が隠し切れて無いのが残念だわっ!」
『っ!』
一瞬引かれた死神の鎌が再び***を狙って突き付けられる。
それをあと少しの所でかわし、そのまま***は距離を取る。
「最初は完璧だったワ!アタシが気が付かなかったんだから!
でもね、***ちゃん、隠れているなら感情的になっちゃダメなんじゃない?!
マダムを殺した時から殺気がタダ漏れよ!!」
叫びながら、地を蹴りグレルが***との間合いを詰める。
***も逃げるが、大人と子供。ましてや死神と人間。
開いたはずの差は一瞬にして縮まった。
***の背後はもう屋根が無い。つまり落ちれば、そこで終わり。
『ぐっ…』
「残念ね、一瞬じゃないの。
時間があればもっと楽しめたのに、もうサヨナラなんて」
『……』
恨むなら、アタシじゃなくてお上を恨んでね。
俯く***に笑顔で別れの言葉を送り、グレルは死神の鎌を振り上げる。
「じゃぁね、***ちゃん!」
死神の鎌が振り下ろされ、鈍い音が響く。
砕かれ、瓦礫と化した物が地面に落ちる音がした。
しかしグレルの手に獲物を捕らえた感触が伝わらない。
下を覗いても、***らしき姿も無い。
「なっ?何処に?!」
『…こっちよ』
「―っ!!」
声のする方を向こうとした瞬間、後頭部に鈍い痛みが走り視界がブレる。
バランスを崩した体を支えようと慌てて死神の鎌を地に刺した為、最悪の事態は回避出来た。
『自称師匠の私が教える護身術。第3章、143ページ
敵の余裕は獲物にトドメを刺す時に生じる
…って本当だったのね』
おかげで命拾いした、と溜め息をつきながら***が呟いた。
「っ…どうやって避けたのよっ!」
まだ痛む頭と揺れる視界の為か少しふらついているグレルの問いに、少し悩んでから***は答えた。
『トドメをさすまでが長い
あんなに喋られたら、攻撃を食らうまでの時間を計算して逃げる方法考えるわよ』
「あらやだ、***ちゃんってばそこまで頭回るのね」
『…"仕事"上、自然とね』
フンッと自嘲気味に***が笑う。
「じゃぁ前言撤回するわ
セバスちゃんとガキは後回しにするから…
私とこの子を満足させてから死んで頂戴っ!」
『…死んで頂戴、なんて頼まれても嫌よっ!』
グレルが死神の鎌を構えたのを合図に二人は走り出した。
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