no title | ナノ


(3/9)

「何故…」

憔悴したシエルの呟きに距離を縮めながらマダムは答える。

「何故?
 今更それを聞いてどうなるって言うの?
 あんたと私は今「番犬」と「罪人」になった
 番犬を狩らなければ狩られるのなら…」



「道は一つよ!!」

隠し持っていたナイフを構えマダムがシエルを襲う。

「ッ!」

狙いは僅かにずれたが、ナイフは確かにシエルの右腕を傷つけた。

「マダム、医者である貴女が何故人をっ…」
「あんたみたいなガキに言ったってわかりゃしないわ!!」


「一生ね!!」

傷口を押さえるシエルの言葉を遮り、怒りを露にしたマダムが叫ぶ。
そしてそのままシエルの首を掴んだまま、壁に押しつけた。

「っ…」
「あんたなんか、あんたなんか、あんたなんか…」

取り憑かれたように何度も同じ言葉をくりかえす。
それに呼応するように首を締める手にも、ナイフを握る手にも力が込められて行った。

「生まれて来なければ良かったのよ!!」

叫び、ナイフを振り上げるマダム。

しかし目に移った甥の姿に、彼女の手が止まった……


―――姉さん



「坊ちゃん!!」

殺す事を躊い、立ち止まってしまったマダムにセバスチャンが襲いかかる。

「やめろ、セバスチャン!!!」

カンッとマダムの手からナイフが落ちた。

「殺すな!」

あと少し、と言う所でセバスチャンが手を止める。

「……セバスチャン…?」

何故・・・肩を押さえ、息が荒い?
感じた疑問の答えはすぐに明かされた。

「ンフッ、セバスちゃんたら根性あるゥ♪
 腕一本ダメにしてまでそのガキ助けに行くなんて
 それに比べてアンタはなんなの?」

壁に突き刺さった死神の鎌を抜き、グレルがマダムの名を呼んだ。

「さっさとそのガキ殺っちゃいなさいよ!」
「だめ…」
「あん?」
「やっぱりダメ…私にはこの子は殺せない…っ」

胸を押さえ、苦しそうにマダムが言う。

「今更何言ってんのよ、さんざん女どもを切り刻んで来たくせに!
 そのガキ殺さなきゃ、アンタが消されるのよ!
 せっかく死神が手伝ってあげてるのに!」
「でも…でも!!」

手を握り締め、シエルを庇うようにマダムがグレルと対峙した。

「この子は私のっ…」

私の、何だったのだろう。
…叫んだ言葉は最後まで伝わらなかった。


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