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「何故…」
憔悴したシエルの呟きに距離を縮めながらマダムは答える。
「何故?
今更それを聞いてどうなるって言うの?
あんたと私は今「番犬」と「罪人」になった
番犬を狩らなければ狩られるのなら…」
「道は一つよ!!」
隠し持っていたナイフを構えマダムがシエルを襲う。
「ッ!」
狙いは僅かにずれたが、ナイフは確かにシエルの右腕を傷つけた。
「マダム、医者である貴女が何故人をっ…」
「あんたみたいなガキに言ったってわかりゃしないわ!!」
「一生ね!!」
傷口を押さえるシエルの言葉を遮り、怒りを露にしたマダムが叫ぶ。
そしてそのままシエルの首を掴んだまま、壁に押しつけた。
「っ…」
「あんたなんか、あんたなんか、あんたなんか…」
取り憑かれたように何度も同じ言葉をくりかえす。
それに呼応するように首を締める手にも、ナイフを握る手にも力が込められて行った。
「生まれて来なければ良かったのよ!!」
叫び、ナイフを振り上げるマダム。
しかし目に移った甥の姿に、彼女の手が止まった……
―――姉さん
「坊ちゃん!!」
殺す事を躊い、立ち止まってしまったマダムにセバスチャンが襲いかかる。
「やめろ、セバスチャン!!!」
カンッとマダムの手からナイフが落ちた。
「殺すな!」
あと少し、と言う所でセバスチャンが手を止める。
「……セバスチャン…?」
何故・・・肩を押さえ、息が荒い?
感じた疑問の答えはすぐに明かされた。
「ンフッ、セバスちゃんたら根性あるゥ♪
腕一本ダメにしてまでそのガキ助けに行くなんて
それに比べてアンタはなんなの?」
壁に突き刺さった死神の鎌を抜き、グレルがマダムの名を呼んだ。
「さっさとそのガキ殺っちゃいなさいよ!」
「だめ…」
「あん?」
「やっぱりダメ…私にはこの子は殺せない…っ」
胸を押さえ、苦しそうにマダムが言う。
「今更何言ってんのよ、さんざん女どもを切り刻んで来たくせに!
そのガキ殺さなきゃ、アンタが消されるのよ!
せっかく死神が手伝ってあげてるのに!」
「でも…でも!!」
手を握り締め、シエルを庇うようにマダムがグレルと対峙した。
「この子は私のっ…」
私の、何だったのだろう。
…叫んだ言葉は最後まで伝わらなかった。
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