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ガラガラと馬車が走る。
その中で***は状況が飲み込めないでいた。
【うーん…じゃぁ…マダム】
そう言っただけなのに、なぜ今こうやって、馬車に乗っているのだろうか?
乗り込む前に「本屋に行くわよ」と言われたけれど…それは関係ない気がした。
「***、着いたわよ」
『あ、はーい』
マダムの声で我に返り、***は慌てて馬車を降りる。
降りた先は昨日行けなかった本屋、思わぬ場所に***の目がキラキラと輝く。
『本屋さん!』
「ほら、何か探してるんでしょ?見てらっしゃい」
マダムの言葉に***は首を何度も縦に振ると、そのまま本屋に消えて行った。
「あの子、本当に本が好きなのねぇ…」
「奥様も、では無いのですか?」
「私は…少し違うわ」
どこか遠い目をしながらマダムは呟く。
「奥様…?」
「…さっ!私も医学書入って無いか見て来なきゃ!
グレル!ちゃんと馬車を見ておくのよっ!」
「は、はいぃっ!!」
その後、二人が戻って来たのは30分以上経ってからだった。
「何の本を買ったの?」
『え、その…"自称師匠の私が教える護身術"って言うの』
このシリーズが好きなの、と本の入った袋を抱え、***が言う。
「またスゴいタイトルね…」
『なんかね、夜道の痴漢から突然の強盗まで!って書いてあったの!』
「そ、そう…」
痴漢はともかく、強盗なら逃げた方が良いんじゃないの?
そう思いながらもマダムは口に出さないでおいた。
「そうだわ。***、いつかウチにいらっしゃい。シエルの所とはまた別の本があるわよ?」
『い、良いの?』
「えぇ、勿論よ」
『やったぁ!あ…この後はどこかに行くの?』
嬉しそうにガサガサと、本をビターラビットのリュックにしまった***が尋ねる。
その言葉に今度はマダムが嬉しそうな表情を見せた。
「買い物に行くのよ、洋服を何着かね。あ、私のじゃないわ。***のよ」
『へー……えっ!?』
「聞いたわよ〜?"一張羅は1枚あれば十分じゃないの?"ですってね」
『な、何で知ってるの!?』
ニヤニヤとこちらを見ながら笑うマダムに***は動揺を隠せない。
おまけにいくら***が聞いても「さぁね」と、はぐらかされる。
「もーっ、若いうちに可愛くならなきゃ!ねぇ?」
『っゃ!マ、ダム?どこ触って…』
「腰。あんたコルセット無くても、それなりにくびれてるわねぇ」
『〜っ!』
まさか中でプチセクハラが行われているなんて、誰が思うだろうか?
色々騒がしい車内をよそに馬車は町中を走り続けた。
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