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部屋に漂うアールグレイの香り。
しかしその香りと違い、部屋に漂う空気は真剣味を帯びていた。
【切り裂きジャック】
ジャック・ザ・リッパー
数日前から新聞が騒ぎ立てている殺人事件の犯人の呼び名。
その事件の被害者は、原形を取り留めない程切り刻まれているのが特徴だ。
ただの殺人では済まされないそれに"彼女"は嘆き、シエルが街まで出て来た。
そこまでシエルが話した時、劉が口を開く。
「女王の番犬が何を嗅ぎ付けるのか
我はとても興味深いな
君にあの現場を見る勇気があるのかい?」
「…どういう意味だ」
表情の読めない劉にシエルは聞き返す。
「現場に充満する闇と獣の匂いが同じ業の者を蝕む
足を踏み入れれば狂気に囚われてしまうかもしれないよ」
今まで掛けていたソファから腰を上げ、劉はゆっくり足を進める。
「その覚悟はあるのかい
ファントムハイヴ伯爵」
そこで言葉を切り、シエルの頬に手を添える。
同時にシエルの眼光が鋭くなる。
「僕は"彼女"の憂いを掃うためここに来た
くだらない質問をするな」
凛とした声で言い切るシエルに劉は
「―いいね、その目だ」
そう返し……
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