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『っう…』
殴られた腹の痛みが意識をゆっくりと覚醒させていく。
途切れ途切れに聞こえる会話から、自分以外の誰かがいて、何となく椅子にでも座らされているのが判った。
手足の自由が利かないのが気になったが、それ以上に近くで感じる気配に***はそっと目を開ける。
『きゃぁぁっ!い、犬!?』
目の前10cmも無い位置に(多分ドーベルマンとか言うのだと思う)犬がいた。
さらに座らされている椅子のすぐ近くには、サングラスをかけた男が二人立っている。
「なんだ目ぇ覚ましたのか」
声のする方向を見れば葉巻を咥え、顔に傷跡を持った男‐アズーロ‐がいた。
そしてその奥、壁の方に目をやれば…
『シエルッ!?』
拘束され、おまけに殴られたり蹴られたのだろう…シエルの姿が。
慌てて体を起こす***に制止の手が掛かる。
「動くなよ。てめぇが動けばそいつがてめぇに襲いかかるぜ」
ピッとアズーロが今にも襲いかからんと歯をむき出しにしている犬を指差す。
それと同時に制止の手が下ろされ、***の拘束も外される。
「てめぇは何も考えずに、そこで大人しくしてな」
それだけ言い捨てるとアズーロはシエルに向き直る。
その言葉の裏に隠されたのは“逃げられると思うな”
「さて、話がそれたが…
もう用件は判ったろ?
ブツの在り処さえ吐いてくれりゃ、首はつながったままおうちに帰してやるよ
おチビさん」
「僕が戻らなければクラウスの手から政府に証拠が渡るようになっている。
残念だったな」
おびえた様子も見せず、むしろ強気に出ているシエルにアズーロは切れ、銃を構える。
「大人をナメんなよ。クソガキが!
すでにお前の屋敷に部下を待たせている
ブツはどこだ?
早いトコ吐かねぇと一人ずつ使用人ブチ殺すぞ」
完全に脅しているアズーロだがシエルは一瞬俯き
「可愛い飼い犬がちゃんと『とってこい』をできればいいがな」
口許に笑みを浮かべてそう言い放った。
―バキッ!!
『シエル!?』
激しい音を立ててシエルがアズーロに蹴飛ばされる。
「聞こえたか?交渉決裂だ
殺せ!!」
グシャリとアズーロが葉巻を踏み付けた。
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