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『……ん?』
ピタリとドアに伸ばした手が止まる。
ほんの一瞬、部屋の中に誰かがいたような気がした。
しかしシエルは来客があるからと、この部屋にはいない。
『気のせいかな?』
ネズミをつかまえるのに神経を集中させたから、と一人納得して改めて***は手を伸ばし、部屋の中に入る。
パッと見た感じ部屋には誰の姿も見当たらず、やっぱり気のせいかと思った瞬間。
何者かに後ろから白い布を鼻と口に押しつけられた。
(しまっ……あれ?)
何時まで経っても***の意識は無くならない、むしろハッキリしている。
「…チッ、黒髪のチビかよ、だったらこっちだな」
『!?』
背後から聞こえる低い男の声。
直後、腹に鈍い痛みを感じて***は意識を失った。
「次に来るなら今度こそ片目のガキか」
崩れ落ちた***を床に転がし男がドアを見つめる。
しばらくして聞こえて来た足音に男は構える……その後は簡単だった。
「坊ちゃん、***様
アフタヌーンティーをお持ち致しました」
カラカラとワゴンを押して来たセバスチャンが部屋のドアを叩くが返事は無い。
「坊ちゃん?***様?」
返事が無い事に疑問を抱いたセバスチャンはドアを開ける。
「これは―…」
そこで目にしたのは部屋の主が不在、そして開けっ放しの窓から吹き込む風によって辺りに飛び散った書類の数々。
「嗚呼…何という事だ…」
(せっかくの紅茶が無駄になってしまった…)
困った顔で見当違いな事を思う彼を指摘する者は残念ながら誰もいない。
・・・最も指摘してくれる者自体がいるか少し疑わしいが。
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