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―カツン、コツン…
照明の消された廊下に靴音が響く。
「本当に人間ですか?と来ましたか…」
音の主は片手に燭台を携えて一人つぶやく。
その横顔はどこか楽しそうに笑みを浮かべていた。
「しかし彼女が…***が普通の人間では無い事は確実ですね」
心なしか普通を強調する。
確かに普通の人間なら自分を人では無いと見破るなんて不可能だろう。
しかし***は違和感を覚えたと言っていた。
つまり普通ではないからこそ、"何か"を感じていたのだ。
「それにしても…彼女も気が付いていたんですか…」
脳裏に浮かぶのは黒い毛並みの彼女。
もっとも彼女の場合、人ではないから、本能とかそういう類いで判ったのかもしれない。
「かわいい顔して、ですね
さて、明日の準備をしなくては……」
身に纏った燕尾服を翻し、声の主は足音と共に闇の中へと消えて行った。
訪問者 END
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