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「ね、似合ってるでしょ?でもやっぱりシエルが一番……アラ?」
シエルの手を取るエリザベス。しかし視線はある一点で止まる。
「シエル!あたしが用意した指輪は!?
お洋服に合わせたかわいーのがあったでしょ?」
ゴゴゴゴと効果音を付けながらエリザベスはシエルに迫る。
シエルは「指輪?」と聞き返し、それを見ていた***は(あぁあの話)と思い出す。
「指輪はコレでいいんだ」
パッとエリザベスから手を退けてシエルは言うが、それがエリザベスのファンシー魂に火をつけた。
「イヤよ!!せっかく全部かわいくしたのに!
指輪だけ全然かわいくないっ!!
あたしが持って来たヤツはしたくないっていうのねっシエル!!」
怒ったと思えば、ヒドいと泣きに入るエリザベスにシエルは溜め息をつく。
「そうじゃない、この指輪は…」
エリザベスが狙っていたのはこの瞬間。
シエルの一瞬の隙をつき、指輪をその手から抜き取った。
『あっ!』
「取ーーーった♪
やっぱり指輪スゴクブカブカじゃない!
あたしが選んだのはサイズもピッタリ……」
「返せッ!!」
突然のシエルの声にビクッと体をこわ張らせるエリザベス(と一部使用人達)
当のシエルは怒りを露にエリザベスに手を突き出す。
「それを返せ…エリザベス!」
「なっ…なんでそんな怒るの?
あたし…せっかく」
涙を浮かべて見てもシエルの表情が変わることはない。
「…っ、なによ…
あたし、かわいくしてあげようとしただけじゃない!
なのになんでそんなに怒るの!?ひどいっ!
こんな指輪なんかっ!
キライ!!」
『あ、ダメっ!』
腕を振り上げたエリザベスを止めようと***が走り出そうとするが、カシャーーンと言う音とともに指輪は砕け散った。
「―――!!!」
指輪を壊された事でカッとなったシエルが手を上げる。
「坊ちゃん」
振り上げた手は今まで動かなかったセバスチャンに止められ下ろされる事は無かった。
「坊ちゃん」
我に帰ったシエルをもう一度セバスチャンが呼ぶ。
「せっかく新調した杖をお忘れですよ」
そう言ながらシエルに杖を持たせ、荒れた呼吸を整える時間を稼ぐ。
「申し訳ありません。ミス・エリザベス」
「あの指輪は我が主にとってとても大切なもの」
「ファントムハイヴ家当主が代々受け継いでいる、世界でたった一つの指輪だったのです
主人の無礼をお許しください」
「え…!?
そんな…大事な指輪…あたし…
シエル…あたし…っ」
なにか言いたげなエリザベスを余所にシエルは指輪の破片を集め、その破片を外に投げ捨てた。
『!!』
「な…
シエル!?なんてこと」
「構わん、あんなもの
…ただの古い指輪だ
指輪-あんなもの-がなくとも」
ギリッとステッキを持ち替える手に力が入る。
「ファントムハイヴ家当主は
"シエル・ファントムハイヴ"-この僕-だ」
凛と言い放つシエルのその姿はとても12歳の少年とは思えない程の威厳に満ちていた。
「なんだその顔は?」
随分前に落としてしまった帽子を拾いながらそう尋ねる。
聞かれたエリザベスは涙と鼻水でそれは凄い事になっていた。
「酷い顔だ。レディが聞いて呆れるな
そんな顔の女をダンスには誘いたくはないんだが?」
その言葉に今まで泣いていたエリザベスは目を見開く。
「嫌な事を忘れ踊り明かすのが夜会の礼儀だろう、レディ?」
口許に少し笑みを浮かべながら手を差し出すシエル。
エリザベスはそれにそっと自分の手を重ねた。
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