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『…困ったなぁ』
玄関前の階段に座りながら***は大きな溜め息をついた。
あの後、黒猫が別れ際に言った言葉が頭から離れない。
「あたし思うんだけど、多分あの人人間じゃないのよね
あんた…機会があれば聞いて来てくれない?」
まるで「今日の夕飯聞いて来て」みたいな軽いノリで彼女は頼んだのだ。
『普通聞かないでしょ…』
第一どうやって聞けと言うのか。
まさかストレートに「人間ですか?」なんて聞く訳にいかない(逆に変人扱いされる)
ただ***も何となくではあるがセバスチャンに違和感を覚えてはいる。
何処がと聞かれたら答える事はできないが、とにかく違和感があるのだ。
『困ったなぁ…』
2回目の大きな溜め息を付き***は膝を抱え込み俯く。
そのせいで***目掛けて走って来る人影に気がつくのが少し遅れた。
『だれ…っ!?』
近くまで迫った足音に顔を上げた時、***は服の襟を掴まれ屋敷に引きずり込まれてしまった。
『く、くるし……』
―首が絞まってる!
そう言える筈も無く***の意識はフェードアウトしていった。
『うぅん…っ!?』
ゆるゆると重たい瞼を開け、いきなり飛び込んで来た景色に***は驚愕した。
多分ここは客間だったように思う、ただ何かおかしい。
「もー、あなたってば可愛いんだからウサ耳なんてどう!?」
―見知らぬ女の子に…
「い、いいですよ!結構ですよー!!」
―ウサ手袋(?)とウサヘアピンを付けたフィニに…
「てめぇはマシじゃねぇかよ、俺なんか…!」
―中途半端に赤ちゃんの格好をしているバルド
***が状況が飲み込めないままでいると控え目にドアが開かれメイリンが顔を出した。
「あの〜広間の飾付け終わりまし……あ!***さん起きたですだか!」
「え!?あの子目覚ましたの!?」
『!?』
物凄いスピードで駆け寄る少女にまたしても***は反応が遅れた。
気がついた時には両肩をがっしりと少女に掴まれていた。
「いやーん!貴女ってば髪が黒だけど瞳は黄色なのね!もーどうやって可愛くしようかしら!」
『え、ぁ…』
「猫さんも良いけどー、やっぱり女の子だからお洋服から可愛くしなきゃダメよねー♪
もちろんそのお洋服も可愛いんだけど♪あたしがもっと可愛くしてあげる☆」
いったん***から離れたと思えば、少女はニコニコと笑顔で洋服を抱え戻って来る。
更に見物だと言わんばかりにバルド達も***のそばに集まってくる。
ただなんて事ない流れに、***の中で知らない記憶がフラッシュバックした。
闇の中たった一人の自分に近寄って来るたくさんの人間…
『あっ…や…』
―やめて
「もー怖がらなくて良いのよ?可愛くしてあげるだけなんだから♪」
―お願い来ないで
「ほ〜ら!立たないと着替えできないでしょ?」
少女の手が***に触れようとしたその瞬間。
『いやぁぁぁっ!!』
パシンッと乾いた音がした。
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